第133話 三矢の教え

元就一行が吉田郡山城へ戻って数日後。

元就は元春、隆景を吉田郡山城へと呼び出した。


「なんじゃ、父上!」

「兄上も何かご存じですか?」

「いや、ワシも詳しいことはなんも聞いておらんぞ」

三人は三人で怪訝そうな顔で、元就の部屋に向かう。


「父上、隆元、元春、隆景です。入ってもよろしいですか?」

「うむ、入ってこい」


三人は元就の部屋に入る。

「して、父上」

「一体何事じゃ?」

「急ぎの軍事でしょうか?」

隆景は不思議そうに言った。


「お主らは、先の蜂起のことを知っておるな?」

「ええ、もちろんです」

「その蜂起とこたびの呼びつけ、何か関係があるんじゃ?」

元春は首をかしげる。

「もしや、父上……」

隆元は何となくだが見当がついた。


「お主らにこれをのう」

元就は分厚い巻物を広げる。

三人はぎょっとしてその巻物を見た。


「長い! 長い! どんだけあるんじゃ!?」

元春は困り顔で言う。

「これは……?」

隆景も困り顔で言う。


「名付けて三子教訓状じゃ!」

元就は渾身の出来らしく、誇らしげに言った。

「三子教訓状……?」

元春はぴんと来ない、という顔をした。


この教訓状は文字通り3人の息子たち宛てに書かれたものではある。

一族協力を説いた倫理的な意味だけでなく、安芸の一国人領主から、五ヶ国を領有する中国地方の領主に成り上がった毛利氏にとって、戦国大名としては独自の「毛利両川体制」とも呼ぶべき新体制をとることを宣言した政治的性格をおびている。


それで、「兄弟が結束して毛利家の維持に努めていくことの必要性を説き、元就の政治構想を息子たちに伝えた意見書であり、単なる教訓とはまた異なる文である。


元就は、様々な家が内乱、裏切りなどにより滅んだ実話を踏まえて、より結束が大事だと説きたいと感じたからこそ14条に渡って教訓状を執筆したのであった。


そして、元就はこの教訓状の歴史的意義を述べるとすれば、これはただ単に三兄弟の結束を説いたというものではなく、毛利氏の「国家」の核となる毛利家を保つために家督の隆元の主君としての地位を明確にしたものであり、それによって兄弟・一族のなかでの内紛を避け、いわゆる下剋上を禁止すると宣言したものである。


「そういうことなら、普通に手紙として送ってくれればよいものを……、いや、それも大変な話じゃな」

元春は苦笑いした。

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