第115話 神楽奉納

笛や太鼓の音色が、厳島神社から流れる。

悠月たちは、その舞姿をゆっくりと眺めていた。


そう。

これも元就の命で始まったことである。


「死者を弔うため、7日間神楽奉納をせよ」

元就はそう命じていた。


「厳島神社でこんな凄い神楽が見られるとは思わなかったよ」

松井は感心したように言う。

「どうやら、定期的にあるらしいんだけどな、神楽奉納」

「そうなんだ?」

「俺も実物は見たことがないからさ。ちょっと新鮮」

「確かに」


二人は神楽に付いてもあまり知識はない。

「お主らは、神楽を見たことがないんか?」

「ないですよ」

隆元はその言葉を聞いて、神楽の事を教えようと口を開く。


「これは石見神楽、と称してな。日本神話を元にした神楽じゃ」

「そもそも神楽って定義がわからないです」

松井は申し訳なさそうに言った。


「神楽とは、神に舞を奉納する、というものですよ、松兄様」

「そうじゃ。収穫期に自然や神へ五穀豊穣を感謝する神事として、氏神社において夜を徹して朝まで奉納されるもの、というのが神楽じゃな」

「それが発祥なんですね」

二人はその説明に感動する。


鬼や大蛇など、クライマックスに進むにつれ、お囃子のテンポが上がっていく。

「そろそろ話の終盤じゃな」

「わかるんですか?」

「ああ、お囃子の調子が早くなってきておるじゃろう?」

「確かに……」


神楽の舞が終わると、みな一様に拍手をする。

だが、大声で騒いだりする様子はない。


「神楽は神聖なものじゃからな」

隆元はさりげなく二人に言う。

二人も舞の様子などで、理解をするのは早かった。


厳島の大舞台で、奉納される舞を見ながら夜は明けていくのであった。

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