第114話 お清め
厳島の土を、家臣一同で血に染まった部分を削っては一か所に集めた。
そして、対岸の大野の地へと運ぶこととなった。
おびただしい戦死者と、厳島の土。
運ぶのは困難を極めたが、いつまでも厳島に置いておくわけにはいかない。
「さて、次は」
元就の言葉に家臣たちはビクリとする。
「潮水で厳島の境内を清めるぞ!」
その言葉に、家臣たちはがくりと首を落とす。
「早く終わらせて郡山に戻ろうぞ」
隆元は家臣に同情的だが、苦笑いしながら呼びかける。
「やりましょう……」
家臣は一人、また一人と重い腰を上げ始める。
元就はその様子を満足げに見ていた。
何に満足していたか……。
それは隆元の家臣を動かす力である。
境内を潮水で清めるのも、困難な仕事であった。
何分、厳島神社も広いのである。
さらに、回廊はいくつにも分かれている。
勅使橋なども丁寧に清めなければならなかった。
「広い……」
「観光目的で何度か来たけど、こうやってお清めなんて言われると広いもんだな……。観光目的と思って来ているとそうでもないんだけどさ」
「気持ちの問題なのかな?」
悠月と松井はついそんな話をした。
「ほれそこ、口より手を動かさんと終わらんぞ」
隆元は苦笑いしながらお清めを進めるよう促す。
「はい」
二人は揃って返事をした。
ほとんど一日がかりで、厳島神社のお清めを終えた。
「はぁー、くったくただ!」
夜の砂浜で、悠月は寝転がる。
「よく働いたよ」
松井も同じく寝転がる。
「そういえば、悠月は宮島の観光って言ったら何が気に入ってた?」
「んー? やっぱり、俺はあれだな。もみじ饅頭」
「ハハ、色んな種類があるよね」
「揚げもみじとか好きだな。特にクリームの」
「あ! それ僕大好きなやつだよ!」
「元の時代に戻ったら、また一緒に行くか」
「うん!」
松井は目を輝かせて返事をする。
「けど、戻れるのはいつになるんだろうな……」
悠月の声は波にかき消され、松井には届かなかった。
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