第63話 裏切り

何とか山菜で兵糧を繋ぎつつも、大内軍は追い詰められていた。

そんな夜、大内義隆に尋ね人が訪れた。

吉川興経である。


「月山富田城を落とすため、我らに前線をお任せいただけませんか?」

興経は怪しく笑みを浮かべつつ義隆に申し出た。

「ふむ……、では毛利殿を呼び……」

「いえ、その必要はありません」

興経は元就が来ることを拒む。


義隆は、その言葉に応じることにした。

その方が、円満に話が進むと思ったからである。

吉川興経及び他の国人衆が月山富田城を落とす為に城門へ攻め込む、という採算を持ち掛けた。


こっそりと聞き耳を立てていた晴持は、それをすぐに元就や隆元に知らせに行った。

元就の耳に入れば、多少なりとも策を得られると考えたからである。


「毛利殿、今よろしいでしょうか?」

「晴持殿か、どうなされた?」

「実は……」

元就は晴持から話を聞く。


「なるほどのう……」

「何か他の策などあれば、ご教授願いたく思います」

元就は少し黙った。

策を練っているようで、隆元も春持も声をかけずにいた。


「興経殿の出方次第となるじゃろう」

「黙ってみておくしかないということでしょうか?」

元就は静かにうなずいた。

「もし本当に調略の為の策があると言うなら、邪魔をして犠牲を増やすわけにはいかん。しかし、寝返りの可能性も大いにあるが、どちらともいえないのが現状じゃ」

「確かにそうですね……」

隆元も同じように渋い顔をした。

義隆及び興経ら国人衆が話し合った数日後。


興経らは月山富田城の城門前にいた。

「尼子殿、我ら国人衆じゃ。城門を開けてくだされ!」

「その声は、吉川殿か!」

城門が開かれたと同時に、国人衆は月山富田城に入城する。


「尼子殿、これより傘下へと加えてくだされ」

「良かろう。しかと働いてもらおうぞ」

尼子軍はすんなりと国人衆を受け入れた。

彼らはあっさりと尼子軍へと合流してしまったのである。

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