第62話 山菜採り

日に日に戦は激しさを増していた。

悠月の言った通り、やはり兵糧の補給道を襲撃され、大内軍は困窮していた。

そこで、大内軍はやむを得ず小隊を結成し、山菜など食べられるものを探すこととした。


たまたま通りがかった悠月は、隆元に推挙され山菜採りに向かうこととなったのである。

「えぇえ!? お、俺、山菜とか全く知識ないですよ!」

「大丈夫じゃ、ちゃんと知っている者が多いから教わればよい。行ってこい!」

「そんな……! 松井、松井は!?」

一緒にいたはずの松井はいない。

「……逃げたな!」

悠月は小隊へと強制編入させられた。


悠月は額の汗を拭った。

「これ、食えるかな?」

「それはダメじゃ。毒があるぞ」

「なるほど……」

手慣れている老年の兵が傍で教えてくれていた。

いつの間にか、老兵のかごはたっぷりと山菜がある。


一方で、やはり現代の町育ちの悠月はあまり見つけられなかった。

「これは良いにおいするけど……、どうですかね?」

「これは食えるぞ。ヨモギじゃ!」

「え?これヨモギだったんだ……」

「普段なんじゃと思っとったんじゃ?」

「草かな?って」

「……う、うむ……、確かに間違ってはおらんな」

さすがの老兵も苦笑いした。


ヨモギが取れたから、と調理兵たちに提供する。

「今日は少し奮発できそうだ! ありがとうございます」

「上新粉とかあれば、ヨモギもちとかになりそうだな」

上新粉はうるち米を水洗いして水切りし、しばらく乾燥させてから製粉したものである。

「上新粉なら、用意してあります!」

「はい、元就様のご命令でしたから」

「じゃあ、今日はヨモギもちが期待できそうだ」

悠月は少し嬉しくなった。


「あれ?悠月どこ行ってたの?」

「……肉体労働の派遣業だよ」

「そっか、お疲れ様。そうだ、僕元就様にこれもらったんだ。少し食べる?」

「良いの?」

「うん、僕は先に一ついただいたからさ」

松井は饅頭らしきものを悠月に分けた。

「しっかり働いたから、腹ペコなんだ。いただきまーす」

悠月は一口食べる。

「美味いな、これ」

「良かった」

松井はなんだかうれしそうに言った。

「肉体労働の派遣を免れたから作れたんだよね。悠月、ありがとう」

「やっぱり逃げたな!」

悠月は松井をにらんだ。

「あ……いっけない! 逃げよっと」

その日の半日、松井は笑いながら悠月から逃げ回った。


「元気じゃな、あやつら」

「なら明日も、山菜採りに派遣しましょう」

悠月に指導した老兵が言う。

隆元と元就は頷いた。

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