第60話 才覚

「隆元」

隆元は自分を読んだ声の主、父の元就の方を向く。

「いかがなさいましたか、父上」

「ちょっと話があるからこちらに良いか?」

「かしこまりました」

隆元は二人から離れ、元就に従う。


「隆元様ってさ」

「うん」

「俺たちが緊張してるってわかって、あえて驚かせて緊張ほぐそうとしてくれたんだよな、多分」

「そうだと思うな、僕も」

「優しいと言うか、気配り上手と言うか……」

「そういうことが自然にできるからすごいと思う」


史実で、毛利隆元は個人で派閥ができるほど人望があったという。

そう言った点の片鱗ではないか、と二人は思った。


月山富田城への攻め込みは、なかなか始まる気配がない。

ついには、10月に入ってしまった。

三刀屋峰に陣営し、冬に入る。


「さっぶい!」

悠月は外の見張りを手伝ったが、凍えて帰ってきた。

「お疲れ様。ちょっと待ってね、今お湯を沸かすよ」

ポッドなどもない。

その為、飲み水なども沸かさねばならない。

改めて、科学の進化に感動する二人であった……。


小三郎は、三刀屋久扶や吉川興経らの動向をさりげなく探っては元就に報告していた。

やはり、大内方が不利であると悟れば……。

元就は話を聞いても、うむ、としか言わない。

「どうしても、戦況が変われば寝返りは起きるもんじゃ」

「そうでございまするが……」

「我ら毛利家も、そうして家を守っておった。気持ちは分かる」

「確かに、我が家もそうでございました……」

「小三郎」

「は!」

「お主の主家、安芸武田氏もそういうもんじゃ。むやみやたらと咎めることは難しい。生きる為なのじゃからな」

元就の口調は優しかった。

小三郎は改めて、元就の影になってよかった、と密かに思った。


三月になり、ようやく少し暖かくなり始めたころ……。

「者ども!突撃じゃ!」

ついに、月山富田城へと攻撃が始まった……!

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