第59話 三刀屋城

大内軍は、三刀屋まで進軍していた。

三刀屋みとやには、三刀屋城と言う城がある。

この三刀屋城も、尼子十旗の一つに数えられる要所であった。

だが……。


城主である三刀屋みとや 久扶ひさすけは先の吉田郡山城の戦い後、尼子から大内へと降った一人である。

その為、三刀屋城は大内軍が見えると城を開いた。

「よくぞおいでくださいました!」

久扶は恭しく大内軍を迎え入れる。

「うむ、お出迎え大儀じゃ」


義隆は先の赤穴城でケガを負った仲間の手当てを行うよう命じた。

二か月ほど、大内軍の調整や回復を図る。

その間に、元就らと共に度重なる軍議を行い、月山富田城を落とす手立てを考えた。


「戦の間の準備って、もっと早くできないのかと思ったけど……、案外準備に時間がかかってしまうんだね」

「月単位だもんな」

松井と悠月は、よく考えたら戦国の合戦にこうもしっかり従軍したことがない。

その為、資料などを見て「こんなにかかるのか……」と思うことはあっても、やはり実際に一緒に同行するのとでは雲泥の差であった。


現代のように、車やバイクなどもないし、手紙を送るだけで何日もかかってしまう。

ましてや、郵便局のようなものもあるはずがないのだから、速達でなんていうこともできるわけがない。


「手紙、一応書いたけどさ、いつ届くと思う?」

「え?……というか、誰に?」

「くるみちゃんに現状報告の手紙だよ」

「ええ……。でも、出雲から吉田郡山城でしょ?」

「一週間は見た方が良いのかも」

松井は苦笑いした

「そう思うと、現代ってすごいな……」

悠月はしみじみと呟く。

改めて、現代がいかに恵まれているか、二人は実感するのであった。


「なんの話じゃ?」

「うわぁ!」

急に声をかけた隆元に、二人はびっくりして情けない声を上げた。

「すまんの、驚かしたか」

「びっくりした……」

隆元は楽しそうに笑っていた。

「隆元様、驚かせないで下さいよ」

松井は抗議の声を上げた。


ただ、驚かされたとはいえ少し周りの空気が和んだように思えた。

もしかしたら……。

二人はそう思うことにした。

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