第39話 誘拐未遂

松井は早速、行動に出た。

闇夜に潜んで、毛利軍の陣営へと忍び込む。


そして、お目当ての人物を見つけた。

てちてち、と効果音が付きそうなほどゆっくりと歩く徳寿丸である。

松井は徳寿丸を背後から捕まえようとした。

「おい、松井!」

悠月はその手を掴む。

「お兄さん、誰?」

徳寿丸は驚いて後ずさる。


「徳寿丸を拉致しようと乗り込んできたのか!」

「そうだよ。言っただろう? 僕は歴史を変えたいってね!」

怖がる徳寿丸の瞳には、じわじわと涙が溜まっていく。

「う……うっう……うわあぁん!」

徳寿丸は大きな声で泣きだす。


松井は大慌てで逃げ出そうとするが、悠月は松井の腕をしっかりと掴んでいた。

「放して、悠月!」

「ダメだ!」

松井は逃れようと、腕を左右に動かす。


徳寿丸の泣く声に、隆元、少輔次郎、元就も走ってやってくる。

「徳寿丸! どうしたんじゃ!」

元就は慌てて徳寿丸を落ち着かせようとする。


「隆元様、こやつが!」

「悠月の知り合いであったか? 一体徳寿丸に何をしたんじゃ?」

隆元はあくまで丁寧な口調で聞いた。


「徳寿丸を連れ去ろうとしたんです」

悠月は松井を庇ったりしない。

まっすぐに正論を述べた。

「悠月……!」

松井は少し焦ったような顔をしてた。

「助けてくれると思っていたのに!」

「助けるわけがないだろう!」

悠月はイラっとして声を荒げる。


「では、地下牢へ閉じ込めておこう」

元就が言うと、兵たちは祐月から松井を引き受け、地下へと連れて行った。


松井が連れて行かれた後、背を見送りながら隆元は言った。

「歴史は一つの試練なのかもしれないな」

「そう思います」

悠月はその言葉にうなずいた。

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