第40話 牢獄

松井は、牢の中でどうするべきかを考えていた。

「脱獄は難しいだろうな……。尼子方も兵力が良いとは言えないから、救援はほぼ望めない……」

困ったような顔をしても、もちろん毛利方は気にかけることはしない。


悠月は松井の様子が気になってたまに見に来る。

「なあ、改心する気になったか?」

「僕は、毛利の歴史を崩したいんだ……!」

「……そうか」

諦めたかのように、悠月が去ろうとする。

「待って! 悠月、もう少し話がしたい!」

「俺は今、毛利家に助けられている身だ。そういう考えのお前とゆっくり話すということはできない」

「……悠月」

「悪いけど、松井が歴史を変えたいなんて思わなくなったら話はできる」

悠月は松井から視線をそらして去っていく。


「どうして……、どうしてなんだよ!」

松井は力なくしゃがみ込む。


歴史にもしもはないけどさ、それでもこういうことになってたら、という他愛のない会話をするのが好きだったのに。

松井はそう思いながらも、ただ黙って牢にいた。


食事を運んできたくるみを、松井は睨む。

「食事を持ってきただけよ」

「いらない」

「あなたには、話してもらうことがあるから。ちゃんと食べておく事ね」

くるみは丁寧に置いていく。


与えられた食事は質素なものだった。

こんな戦の最中である。

むしろ、質素だが、品数は少し多いのでご馳走にすら感じた。

「なぜここまで……」

「父上の命令だからな」

「! お前は、毛利隆元か!」

「いかにも。父上は家臣であれ、民であれ、平等になおかつ丁寧に扱うお人だからな。お主も丁重にと命じられている」

「……余計なことを」

「今はそう思うかもしれん。じゃが、お主は話すことも多くあろう?」

隆元はそれでも優しく問いかける。

一番丁寧なのは、隆元なのかもしれないな。

松井はひそかにそう思った。


「元就公と話をしたい」

「……約束はできぬが、交渉はしてみよう」

隆元はそう言って牢を去った。

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