第21話 霧の中の奇襲

朝方。

やはり、吉田郡山城の一帯は霧に覆われていた。

「夜中、雨も降ったもんなぁ」

「あまり激しい雨ではなかったみたいだけどね」

「霧は水分が関係してできる現象でもあるからね」

悠月はそう言って景色を見る。

見事に霧で真っ白だ。


山の霧の原理は谷に沿って湿った空気が上昇し、露点に達したところで発生する仕組みとなっている。

遠くから見ると山に雲が張り付いて見え、その内部からの観察では濃い霧となっている。動かないように見えても実際は空気が下から次々と上昇している。

滑昇風により発生することも多く、滑昇霧や上昇霧ともいうのである。


「確かに、こうも霧が深ければ奇襲にはうってつけであるな」

隆元も感嘆したように言う。

「さてと、そろそろ我は出陣の用意をするとしよう。なにかあれば教える」

「気を付けて行ってきてくださいね」

悠月とくるみは、戦支度を始めようとする隆元を見送る。


それからしばらくし、轟音が響く。

歴史通り、吉田太郎丸のあたりに放火があったようだ。

「霧と煙が入り混じって、見えないな……」

「けど、さすがにすぐにはこの本丸には攻めてこないと思うわ」

「うん、歴史通り、ならね」

「……不安なことを言うのね」

「仕方ないさ、前みたいに歴史がむちゃくちゃになっていたら分からないし」

くるみはそれを聞いて黙るしかなかった。

確かに、その通りなのである。


その時、ひゅん、と鋭い音がした。

「え?」

そして悠月は恐る恐る背後を見る。

「……矢!?」

「これ、矢文ってやつじゃない?」

「ああ、矢文……。本当いきなり来るんだな!」

「事前に分かっていたら確かに怖くはないけど……、これってほぼ緊急の手紙じゃなかったかな?」

「じゃあ、見てみるか」

悠月は結んであった紙を解いて広げる。


『探していた黒服の男あり 防衛兵の増援を求む』

と書かれているのが辛うじて読めた。

「誰に頼めと言うんだ……?」

「元就公に、防衛兵の増援のところを書き写して転送しちゃえば?」

「そうなるか」

悠月は隆元の手紙の上に紙を重ね、防衛兵の増援を求むのところを書き写した。

そして、その紙を元就の部屋に向けて放り投げた。

「読んでくれ、元就公……!」

悠月は祈る気持ちで戸を見つめた。

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