第20話 父子の軍議

「ううむ……、隆元はどこに行ったんじゃ……!」

元就は困ったように兵に尋ねる。

「若様は……、お見掛けしておりませぬ」

「さようか。尼子方も明日には攻めてくるであろう。そなた、もう休むが良い」

「ハッ、恐れ入ります」

兵は頭を下げ、部屋に引き下がった。


「元就公も、家臣に対して優しいよね」

「優しさと厳しさ、ともになければ将は務まらぬだろう。時には優しく、時には厳しく、飴と鞭というものだな」

「なるほど、確かに」

悠月とくるみは頷く。


「父上……」

「そこにおったのか、隆元!」

「はっ、少々外しておりました」

「この戦に対して、お主の意見も聞いておきたい」

「私のですか? もちろんです!」

隆元はやはりどこか嬉しそうだ。


隆元は、生来自分は無才覚、無器量などと言ってはいたが、どちらかというと、能ある鷹は爪を隠す、である。

彼自身も、やはり元就の血を強く受け継いでいる。


「今日、尼子方は民家に放火をしておる」

「けが人などは?」

「すぐに手当てはしておるから大丈夫じゃ。次はいつ仕掛けると思う?」

「恐らくは、早朝でしょう」

「ほう、何故そう思う?」

「夜中、雨が降れば霧が出るからにございます。朝霧に紛れて奇襲を仕掛けようとするはずです。恐らくは、吉田太郎丸の町が最も危ないかと」

吉田太郎丸は、郡山の南方地域に位置する。


「朝霧に紛れ、奇襲……、確かに兵法から見てもそれは上策と言えば上策じゃ」

「被害拡大を防ぐためにも、ここは厳しく防戦すべきだと私は考えております」

「うむ、隆元の言う通りじゃ!」

元就は力強くうなずいた。


「隆元、もうお前も休んでよいぞ」

「ハッ、失礼いたしまする、父上」

隆元が部屋を出る。


隠れていた悠月とくるみはそっと隆元に近寄った。

「お主たちが指摘したとおりの事を父上に申し伝えた」

「これで、少し前進かもしれないわ!」

「ありがとう、隆元様!」

「あまり大声を出すでない!」

隆元は二人をそっと叱った。

二人の存在を、他の人物たちに知らせるわけにはいかないのだ。

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