第18話 隆元
その瞬間、ぼんやりとした影が浮かぶ。
「わぁ!? びっくりした……!」
それはやがて、人の姿となった。
「お化け!? やだ、私お化けは苦手なのよね……」
くるみはそう言って、悠月の後ろに隠れようとした。
その時、声がした。
「我は毛利隆元……」
「え!?」
くるみは悠月の背後からちらりと顔を見せる。
「なんで、毛利隆元公がここに!?」
「……どうやら、歴史の軸から外れてしまった様じゃ」
「歴史の軸?」
隆元は目を伏せる。
「いわば、歴史から弾き出されたという状況じゃ」
「それってつまり……」
二人は言うべきか悩む。
いわゆる『除け者』状態になっているのだ。
「どうした、黙り込んで」
「いえ、特には」
悠月が苦笑いして言う。
実は、隆元は『近頃、元春と隆景の両弟は吉田郡山に来ても長期滞在せず、それぞれの家のことばかりに固執し、相談事があっても私ではなく父上を相手にする。これは二人が私を見下して除け者にしているようで、非常に腹が立つ』という内容の手紙を元就に送り付けたという逸話さえ残っている。
元就はそれを見かねて、兄弟仲良く一致団結せよ、ということで三矢教訓状の話をしたという。
また、隆元は温厚で篤実な性格の持ち主で、絵画や仏典書写などを愛する教養豊かな人物であったとされている。
その一方で、父の元就のように超然とした態度が取れない自分を卑下したり、有能な弟達に対して劣等感を抱き、苦悩したりしていることが元々の歴史では明らかになっているのである。
「自分は生来、無才覚無器量であるからな。弾かれても当然であろう」
「いやいや、そんなことは絶対にないですよ!」
悠月は大慌てでフォローを入れる。
「隆元公だからこそ、毛利家はうまくまとまっていたのに……」
くるみもしゅんとして言う。
「そ、そうか……、ありがとう」
面と向かって言われて、隆元は恥ずかしそうに頭をかいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます