第11話 元春の縁談

吉川元春、彼は毛利元就の次男坊である。

元服前に、吉田郡山城の戦いにも、元就の反対を押し切って初陣を飾っていた。

武勇に長ける、と言われているのだから、確かに多くの将兵らを倒したのかもしれない。

だが、戦国の世で合戦があるのなら、それはある意味仕方のないことでもあるだろう。


「それでも、血に塗れたってなんだかおかしい話の気もするが……」

悠月はそう思ったが、実際は違うようだ。

またぐいぐいと引き込まれる感触がする。


「いってぇ! あーもう! またかよ」

強くしりもちをつき、また違う場所へと飛ばされていた。

「ここはどこだと思ったけど……、吉田郡山城じゃないか!」

だが、現在の吉田郡山城ではない。

戦国時代のままである。


時は1544年、実子がいない元就の弟・北就勝と養子契約を行い、北就勝の死後に所領を譲り受ける契約を行った。

その時に養子に出されたのが、吉川元春であった。

「父上、ほんまにワシが行くのか?」

「お前が適任だと、ワシは思ったぞ」

「それなら、まあ仕方あるまい。だが、兄上でもよかったんじゃないのか?」

「隆元はこの毛利家を継ぐものじゃ。徳寿丸も竹原小早川家に養子に行かせてしもうたからの」

「ああ、四年前に」

「そうじゃ」

元春は、北就勝の元へと旅立った。


1547年、元春は自ら望んで熊谷信直の娘・新庄局と結婚する。

元春は熊谷信直の娘を正室に娶り、生涯側室を置かず4男2女の子宝に恵まれた。


この正室の新庄局は不美人であったという逸話がある。

児玉就忠が縁談を薦めた際に不美人と評判だった熊谷信直の娘を元春は自ら望み、驚いた就忠が確認した。

「信直の娘は醜く誰も結婚しようとはしないので、もし元春が娶れば信直は喜び、元春のために命がけで尽くすだろう」

笑ってそう答えたという。


この嫁取りは勇猛で知られる熊谷信直の勢力を味方につけるための政略結婚であったと言われているが、その一方で自らを女色に溺れさせないように戒める意味もあったとされている。

しかし、そのようなこととは無関係と思えるほどに夫婦仲は円満で、元春とその娘との間には吉川元長と毛利元氏、吉川広家他が生まれている。その吉川広家を度々諌めた際は、夫婦連名で書状を送るなど、新庄局は吉川家中では良妻賢母であったようである。


ちなみに、一説によると新庄局は疱瘡を病んだせいで顔が醜くなり、信直はこれを理由に婚約を辞退しようとしたが、元春の側がそのような理由で約束を違えるのを潔しとせず、結婚したとも言われているのである。


「ここまでは血に塗れた、というのはおかしな話だというのにな」

だが、雲行きはなぜか驚くほどに怪しくなってきた。

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