第9話 徳寿丸

ぽいっ、と放り投げられるかのように、また視界が変わる。

「いてっ!」

尻を強打した悠月は、思わず尻をさする。


そこにいたのは、幼そうな少年である。

後ろには、先ほども見た男……、元就の姿もある。

「徳寿丸、来なさい」

「はい、父上!」


「徳寿丸……、小早川隆景の幼名だったっけ」

そう、彼は毛利家三男でありながら、小早川家の当主となる小早川隆景である。


1540年3月に竹原小早川家の当主・小早川興景が銀山城攻めの最中に死去。

継嗣が無かったため、竹原小早川家の重臣らは元就に対し徳寿丸を後継に求め、大内義隆の強い勧めもあり元就はこれを承諾した。


12歳の時に徳寿丸は小早川家の当主となった。

徳寿丸は元服し、義隆から隆の字を受け、隆景と称した。


1547年、大内義隆が備後神辺城を攻めたときに従軍し、初陣を飾った。

この時、隆景は神辺城の支城である龍王山砦(坪生要害)を小早川軍単独で落とすという功を挙げ、義隆から賞賛された。

なお、この合戦に関係する感状の署名が徳寿丸から隆景に変化しており、このタイミングで元服したとされるのが説の一つでもある。

この時、隆景は16歳である。


「いかがしました、父上?」

「お主には、竹原の家に行ってもらうことにしたからの」

「お泊りですか?」

「違うのう。竹原の小早川の家の子になるのじゃ」

「……父上に、もうお会いできなくなるのですか?」

「いつでも会えるとも。お主はワシの息子じゃからな」


竹原小早川家の当主であった興景の妻は元就の兄興元の長女であり、それゆえに竹原家は隆景を養子に希望したものと思われる。


「隆景に関して、血に塗れたっていうのはあんまり関係なさそうだけどな……」

悠月は首を傾げた。

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