第7話 第一次月山富田城の戦い

なぜ、月山富田城を攻め込むのに時間を要したか……。

「確か、どこかの城だったか砦だったかを攻めていたとかって聞いたっけ……」

あかじょうよ。出雲にあるわ」

「確かそんな名前だったね。昔読んだ本に載っていたのをちょっと覚えていた程度の知識しかないけど」

「赤穴城の戦いは、一般的にはそう有名じゃないのよ、きっと」


大内軍は出雲に入るとまず、赤穴城の攻略に取り掛かった。

赤穴城は、赤穴荘の地頭として勢力を張った赤穴氏により築かれた山城で、備後・石見・出雲三国境の683メートルの山頂に位置する。

尼子氏時代には尼子十旗の一つに数えられ重要視されていた城になるので、大内方としては、早めに落城しておきたかったのだろう。

なお、落城は非常に困難であり、おおよそ2か月もの日数を要したと言われている。


ちなみに、尼子十旗とは本拠地である月山富田城の防衛線として10の支城を築いて家臣団を配置したもののことを言う。

雲陽軍実記に『惣じて尼子旗下にて禄の第一は白鹿、第二は三沢、第三は三刀屋、第四は赤穴、第五は牛尾、 第六は高瀬、第七は神西、第八は熊野、第九は真木、第十は大西なり、これを出雲一国の十旗と云ふ』と記されているほど、重要なものであった。

さらに、この十旗と月山富田城を繋ぐ拠点として、築かれた10の城砦が尼子十砦と呼ばれる。


大内氏が行った出雲侵攻では、赤穴氏の守る赤穴城が最初の防御戦となった。

赤穴城の守将である赤穴光清は、大内に従う安芸国人の熊谷直続を討ち取るなど奮戦する。

赤穴城の攻略に手間取った大内軍は、月山富田城を包囲するものの将兵の士気低下と兵站に苦慮している。

傘下の国人たちが離反した大内軍は敗走、尼子氏は危機を脱した。


10月になって大内方は三刀屋峰に本陣を構えた。

その後、年を越して月山富田城を望む京羅木山に本陣を移す。

1543年3月になって攻防戦が開始されたが、思っていた以上の堅い守りによって月山富田城の城攻めは難航する。

また、糧道にて尼子軍のゲリラ戦術を受け兵站の補給に苦しむ。

そして、4月末には、尼子氏麾下から大内氏に鞍替えして参陣していた三刀屋久扶、三沢為清、本城常光、吉川興経などの国人衆が再び尼子方に寝返った。

これにより大内方の劣勢は明白となった。


「えぇ……。国人衆、普通に堂々と城門から入った!?」

「な、なかなか大胆な手法ね……」

二人も戸惑う。

「三刀屋久扶、尼子勢に帰陣いたす!」

三沢為清、本城常光、吉川興経らもそこに続く。

確かに彼らは元々尼子勢の配下ではあったが、大内に鞍替えしたのである。

城内の他の人物と内応していたのだろうか?

それとも、彼らが寝返ることは尼子にとっては計算のうちだったのだろうか?

いずれにせよ、そういったこともあって、大内方は急激に劣勢になってしまったのである。


5月になって大内軍は撤退にとりかかり、出雲ぐん出雲浦へ退いた。

だが、尼子軍の追撃は激しく、大内家臣の福島源三郎親弘・右田弥四郎たちが防ぎ戦死している。

このとき、義隆と晴持は別々のルートで周防まで退却を図った。

義隆は、宍道湖南岸の陸路を通り、石見路を経由して5月25日に山口に帰還する。

しかし、中海から海路で退却しようとした晴持は、船が事故で転覆したため溺死した。

この晴持と言う人物は、大内義隆が寵愛していた養子であった。

晴持の母は、大内義隆の姉である。


また、毛利軍には殿が命じられていたが、尼子軍の激しい追撃に加えて、土一揆の待ち伏せも受けたため、壊滅的な打撃を受けた。

安芸への撤退を続ける毛利軍であったが、石見の山吹城から繰り出された軍勢の追撃によって、元就と嫡子隆元は自害を覚悟するまでに追い詰められたとされる。

この時、毛利家臣の渡辺通が元就の甲冑を着て身代わりとなり、僅か7騎で追撃軍を引き連れて奮戦した後に討ち死にした。

この犠牲により元就たちは吉田郡山城への撤退に成功した。


第一次月山富田城の戦いは結論で言うと、大内方の敗走という形で幕を閉じた。

この遠征は、1年4ヶ月の長期間にも及んだ挙句に大内側の敗戦となり、寵愛していた晴持を失った義隆はこれ以後政治に対する意欲を失ってしまう。

この戦いは大内氏衰退の一因となった一方、尼子氏は晴久のもとで勢力を回復させ、最盛期を創出する。

また、大内氏の滅亡後には石見国を巡って毛利氏と尼子氏が熾烈な争いを続けることとなるのである。

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