第5話 郡山合戦の決着

尼子方を支援していた武田信実・牛尾幸清以下3,000余りが陶軍を迎え撃ち、大内軍援兵の合流を遅延させていた。

「毛利殿、遅参し申し訳ない」

「いやはや、陶殿。よう参った!」

「恐れ入る」


急に強い風が吹きつけてくる。

「うわ、冷たいな!」

「それもそうよ……。陶軍が毛利軍と合流したのは12月だもの」

「そ、そうだったっけ……?」


大内より援軍として陶軍が、吉田郡山城の東側にある山田中山(旧甲田町)に到着。

両軍を見下ろせる住吉山に幟・旗印を立てて陣太鼓を打ち鳴らし、籠城する毛利の将兵を鼓舞した。

元就は陶隆房に謝意を述べて丁重にもてなし、年明けを待って尼子軍に総攻撃をかけることで一致した。

「年明け早々でも戦かぁ」

「三が日だから休み、なんて都合良いわけないでしょう?」

「それもそうか。国の一大事、だもんな……。」


それから史実上の数日後。

宍戸勢を含めた毛利軍は、吉田郡山城の西に位置する宮崎長尾(旧吉田町相合)にある尼子方の陣を襲撃した。


毛利軍は、年を越した1541年にも相合口の尼子軍を襲い、参戦した小早川興景勢から20名ほどの負傷者を出しつつも、尼子兵10数名を討ち取った。

数日後にも再び尼子軍の陣地に迫って火を放つなどしている。

「めちゃくちゃ毛利軍攻めてくるじゃん!」

「ここは毛利の本拠地だもの」

「それはそうなんだけど、尼子方は気が休まらなかったろうな」

「尼子が早く撤退すれば、その心配はなかったのかもしれなかったわね」

「けど、尼子だってこの領土が欲しいから攻めてきたんだよな……?」

「そうね。それでもそう思うわ」


大内軍は山田中山の陣を撤去して吉田郡山城から西に尾根伝いである天神山に本陣を移し、青光山の尼子陣営の真正面に対峙した。

尼子軍は大内軍を牽制しようとしたが、大内軍の陣替えは阻止できなかった。

翌日、元就は天神山の大内本陣へ児玉就忠を使者として使わし、宮崎長尾に陣取る高尾久友・黒正久澄・吉川興経に対して総攻撃をかける計画を伝える。

そして、毛利軍の動きに対抗して尼子軍主力が吉田郡山城に攻め寄せる恐れがあったため、尼子本隊を大内軍で牽制して欲しいと隆房に要請したのである。

これに対して隆房は、末富志摩守を吉田郡山城に派遣して了承の旨を伝えた。


翌日の早朝、城外の小早川興景・宍戸元源らと呼応した毛利軍総勢3,000が、ついに宮崎長尾の尼子陣に攻撃を開始する。

この時、元就次男の少輔次郎(後の吉川元春)が初陣を果たしている。

「少輔次郎! なぜここにおるのじゃ!」

「初陣にございます、父上!」

「ならん!」

「出陣いたす!」

少輔次郎は、元就の諫めも聞かずに勝手に出陣していってしまった。


「あれって……」

「吉川元春ね、のちの。軍事を任されるような人だから、好戦的だったのかもしれないわね」

「だが、太平記を書くような人でもあるからな……」

「それは否定しないわね」


毛利方はほぼ全軍を投入する戦いであったため、百姓や女子供を守備兵に見せかけて城の随所に立たせ、守りが堅固であるように見せかけた。

尼子方の先鋒であった高尾隊2,000は必死に防戦するが、久友は討ち死にして軍勢は敗走。

続いて、第二陣の黒正隊1,500の兵も壊滅して久澄は逃亡した。

第三陣で待ち構える吉川興経は精鋭1,000の手勢で奮戦し、毛利軍に猛反撃を加えた。

戦いは日没まで及ぶが毛利軍は突破できず、元就は兵を撤退させた。

毛利軍は、高尾久友や三沢蔵人など200余名を討つ戦果をあげて城に凱旋した。


尼子勢は1月13日夜、雪の中を退却し、途中追撃にあったが晴久は都賀の渡しで本隊をまとめて帰国した。

撤退した要因は、久幸をはじめ多数の戦死者がでたにもかかわらず、郡山城攻略がはかどらないまま冬季を迎えて意気消沈し、大内義隆との対決に勝算を失ったためである。

また、撤退を急いだのは味方の国人領主達の離反をおそれたからであり、そうなると兵糧の通路が断たれるだけでなく本隊の帰還が困難になるからである。


「ここまでが吉田郡山城の戦いなんだな」

「ええ、そうよ」

「この次、毛利の戦いと言えば……」

ぐいぐい体が引っ張られる感触がする。

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