30 二日目⑪消えた農家の家人と食事
「おーい」
扉にはダグラスが前日に来たのと同様、鍵が掛けられていない。
それどころか、窓すら開かれたままで、カーテンやあちこちの扉がばたばたと音を立てている。
「ティングスよ! おい!」
その家の主人の名なのだろう。
二軒目の主人は大きな声で呼びかける。
だがただその声ががらんとした家の中に響き渡るだけだった。
「ん?」
ふとダグラスは開いた窓の外に見えた鮮やかな色に目が留まった。
「ここにもベリーとりんごがある?」
「ベリーとりんごは昔から居るなら多かれ少なかれ、一本二本植えとくだろ? うちにだってある」
つやつやとした色のベリーが無闇に。
「なあ、俺は昔、家に居た頃、それなりにベリーやら何やら摘みに行かされたもんだけど」
「ん? なんだ?」
「あんなに普通、虫も鳥にも食われずに残ってるか?」
「ん?」
二軒目の主人も窓の外を見る。
「本当だ。野いちごとかってのは鳥が真っ先に狙うんだがな」
「だよな。だから森にある奴なんてのは、花が咲いたら時期を見計らって奴等に食われないうちに皆で穫りに行くんだが…… こんだけ放っておかれて、綺麗すぎる程残ってる実ってのは、大概毒があるって、俺は思っていたんだが……」
「毒?! でもあの木は間違い無くラズベリーだぜ?」
「だよな」
ダグラスは外に出て、そのベリーとりんごを一つずつ手に取る。
と。
ふと葉の方に目が行った。
――食われてる
辺りの木々にもざっと視線を渡らせる。
この時期、何かといえば木には虫がつくものだ。
そして葉を食い荒らす。実なら更に、だ。
「ダグラスさん、こっちだ」
再び呼び込まれる。
二軒目の主人が招き入れたのは、厨房兼食堂になっている部屋だ。
テーブルの上には、空の食器が置かれていた。
「何だ、食事をする前に逃げたか何かか?」
「いや何か違うんだ。それに椅子だって、がたついているし倒れてるものもある。それに見てみろや」
指さす先には、皿に僅かに残った染みがあった。
「これ食う前のものじゃねえよ。食ってる最中か、食った後のものじゃねえか?」
「に、しては皿がぴかぴかだぞ」
「スプーンの染みが取れてねえ」
木のスプーンを一つ、ダグラスは手に取ってみる。
確かにポリッジか何かを食べた時の様な跡が残っている。
「鍋――鍋?」
蓋を開けてみる。うっ、と主人はすぐに閉じる。
「こっちは駄目だ。腐ってカビがいっぱいに張ってる」
「じゃあそれだけの時間、もうこの家には誰も居なかったってことか、鍵もかけず、窓も開けたまま」
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