26 二日目⑦歳を食っているからこその注意深さ

 その頃館の方では、残ったベルとフランシアがミセス・セイムスに指示された部屋の掃除に取り組んでいた。

 格別人を呼ぶ訳ではない、ただ別荘の代わりにのんびりするだけの館なら、閉めておく部屋も多い。

 置物には白い大きな布をかけたままにし、部屋は閉ざしておいても構わないだろう。

 連れてきた人員がそもそもさほど多くは無いのだ。

 さてどのくらい掃除は進んだことか、と作業をしているベルとフランシアの様子を時々彼女はうかがう。

 メイド達をまとめるエメリーが出ているからさぞお喋りをしながら作業をしているのだろう、と思っていたのだが、案外静かだ。

 組み合わせのせいかもしれない、と彼女は思う。

 ベルは普段から大人しい子だ。

 そして黙々と作業をする。

 フランシアは元気で、一生懸命ではあるし手が速いが、そそっかしい。

 最終的な成果はどっちもどっち、というところだ・

 二十歳にもならない子なら仕方が無いだろう、とは彼女も思う。

 とは言え。

 それでもフランシア一人居れば、何かとベルに対しても話しかけが多いと思ったのだが。

 バケツにモップ、階段の手すり用のブラシにワックス、外用の箒、ほこりを払うハタキ。

 そういったものをひとまとめにして持ち歩き、あちこちで作業して行く姿はいつもと同じものなのだけど。

 朝取りかかった時は、まだフランシアは元気だった気がする。

 だが昼近くになってくるにつれ、時々立ち止まってはぼぉっとしたり、また何も無かった様に手を動かす。

 一体どうしたのか、と思っても、作業はきちんとやっているのでどう声も掛けようも無い。

 そして一方で、ガードの様子が微妙におかしい。

 こちらは単純に、やや体調が悪そうだ。


「どうしましたか?」

「いや、少々」


 そう言ってガードは腹に手を当てる。

 彼はそれ以上のことは言わない――のが通常なのだが。


「どうも今朝のジャムが合わなかった様で、吐き戻してしまいましてね。ここはまだ水洗ではない様なのが困りものですが」

「おやまあ、お珍しい。皆平気でずいぶんたっぷりつけていた様ですが」

「まあ私も歳ですので。消化しづらいのかもしれませんな」

「私はマーマレイドの方が好きなので、まだ食べてはおりませんが、そう言われると躊躇したくなりますね」


 奥様達はどうだったろうか、とミセス・セイムスは思い返す。

 確か持ち込んだマーマレイドを食べていたはずだ。

 なら大丈夫だろう。


「旦那様が今日は何を獲ってきて下さるか。大物であることを願いますね」

「そうですね。そう言えば、森番も見当たらないのですって?」

「ええ。ですのでできるだけ注意を、とは申しましたが……」


 どうも奇妙だ、と彼等は思う。


「お誘いあそばしたあちら様はこの事をご存じなのでしょうか」

「その辺りも聞いてみる必要がありそうですね」


 手紙を書かねば、とミセス・エイムスは思う。

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