11 一日目⑦子供達が見た図形とベリーをせがむマーシャ

 ルイスはおぼつかない手つきで鉛筆を取ると、帳面にぐい、と形を描きだした。


「?」

「どうしたんだ? ルイス」

「ぼくもみた」

「8?」


 サリーはチェリアと同じ感想を述べる。

 だが一方でエイブラハムはその形をもう一つの意味が取れるとも思った。


「……無限大」

「お父さん」

「――ってな、うん、8の字は横から見るとそうも取れるな、と思ってな」

「あそこには三つしかなかったけど、じゃあ他のところにはこんなのもあったのね」


 マリアはふんふんと首を縦に振る。


「嫌あねえ、そんな奇妙な模様をわざわざ庭師が描いたのかしら」

「ユーモアとしては凄いと思うけどね」

「貴方!」


 もう、とサリーは夫の脇腹を肘で突いた。



 キッチンではパンの生地作りと大量に必要な湯沸かしが並行して行われていた。

 ガードルードは清潔にした台に思い切りパン生地をこねてはぴしゃ! こねてはどん! ひねってまるめて伸ばして、という作業を繰り返していた。

 夜用には薄力粉とベーキング・パウダーで膨らませる薄いパンケーキを添えることにしている。


「……何だねマーシャ、さっきからそわそわして」

「……あのー…… ガードルードさん…… 裏にもの凄いベリーが生ってるの見つけちゃったんです……」

「何あんた、今から採りに行きたいとか思ってるの?」

「えー、だって倉庫にジャムのストックなかったんですよー。持ってきたのは奥様方の朝用のマーマレイドとお茶用のいちごジャムだけですし。私達の食事用のが全然無いんですよー」

「ふむ」


 手を止めてガードルードは少し考える。

 確かにジャムもマーマレイドも倉庫には一切無かった。

 それだけではない。果物を使った保存食というものが一切入っていなかったのだ。


「だからいつもはこの周りの果物で、ここに来たキッチン担当がまかなってたんじゃないですかあ?」


 マーシャは既に生っていたというベリーに心を奪われっぱなしの様だった。


「判ったよ。どんなベリーか判らないが、すぐにジャムにできそうな奴を採っておいで」


 そう言ってガードルードは棚に置かれた持ち手のついた籠を指さした。

 ヘッティは「いいんですか?」と尋ねる。

 彼女は彼女で、沸かした湯をハウスメイドに渡すべく用意をしている。

 湯はお茶や料理のためだけではないのだ。


「あんなに気を取られていたら次の仕事に手がつかない。それに実際、確かにジャムもコンポートの瓶詰めも何も置いてないんだよ。ご家族にしたって果物が全くないのは困るだろう? まあ確かにあたし等の朝ご飯にも困るしね」

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