10 一日目⑥管理人不在と草原の絵

 お茶と菓子を口にしながら、ようやく家族は仮の居間である応接間に落ち着いた。

 彼等がここでくつろいでいるうちに、使用人達は一斉に動いていた。

 執事のガードは管理人からの手紙と現状を突き合わせている。

 彼もまた、管理人がこの場に居ないことにら疑問を持ってはいた。


「彼等は手紙によると番小屋に住んでいるはずなのですが」


 エイブラハムに向かって告げる。


「番小屋の方を見に行ったところ、誰の姿も無いのです」

「誰も? だが一家で住んでいたはずではないのか? それぞれに役割もある訳だし、この周囲の農場や、牧場のことも」

「そうなのですが」


 歯切れが悪い。


「ガードルードによると、備蓄の効く食料はきちんと予定通りあったということです。ただ、肉や牛乳といったものはどうなのだろう、という」

「おかしいな。ではガード、来たばかりで悪いが、一番近い郵便局から明日、電報を打ってくれないか?」

「お屋敷にですか?」

「いや、あと叔母のところへも。文面は後で渡す」

「かしこまりました」


 そう言ってガードは一家の前を立ち去り、ミセス・セイムスの仕事を手伝いに行く、と告げる。

 家族と皆が毎年行く別荘程度に部屋は使えればいいのだ、とミセス・エイムスには伝えてあった。

 使わないで済む部屋もある。


「どういうことでしょう? 貴方」

「さて。てっきりちゃんと待っていてくれるものだと思っていたからな。……ああ、そう言えば、ウィル、マリア、お前等さっき何かずいぶん興奮してたな」

「あ、そうそう、お父様、凄いものがあったの!」 


 マリアはぱっと父親の膝に飛びつく。


「何だねいきなり」

「だって、さっきあの石の柵から向こうの草原を見た時――ねえ!」


 そう言って彼女は兄の方を向く。


「どんなことがあったんだい?」


 言いながら彼は、娘の頭を撫でる。


「模様だよ」


 ウィリアムは自分の鞄から帳面を取り出す。

 そして鉛筆で幾つかの模様を描く。


「こんな、だったよな?」

「あ、違う、お兄様、ここは+が上」


 そう言って二人は三つの図形を両親に示した。


「何なのこれ」


 サリーは目を見張る。

 ○の中心に点。横に+。

 △のそれぞれの先端に○。

 そして○が十字に四つつながったもの。


「向こうの草原に、こんな図が書かれてたの」

「書かれて?」

「草が、その部分だけ刈られて短くなってるんだよ。だからそういう模様ができてるんだ。ただもの凄くそれが綺麗な出来でさ。明日父さん、見に行こう。狩りついでにさ」

「お母様も行きましょうよ」

「母様はちょっと今日の疲れが明日はきっと出ているわ。……ルイス、どうしたの?」

「……」


 ルイスは兄から鉛筆をひったくると、自分が見た形を帳面に描きだした。

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