9 一日目⑤ ガードルードの疑問

 チェリアは目を凝らす。


「……8の字?」


 草原の緑が、何やら潰れている。

 それが斜め上から見た時に、数字の様に見えるのだ。

 気のせいだわ、とチェリアは思い直す。

 ここでもし坊ちゃまがそっちまで行こう、なんて言い出したら、自分の着替えすらいつになるか判らないのだ。


「今度見に行きましょうね」

「今度?」

「きっと見つけたのは坊ちゃまだけですよ。皆さんを驚かせてやりましょう」

「うん」


 そう言っているうちに、窓を開けてエメリーが合図を送ってきた。


「さあさあ、中に入りましょう。そうしたらまず手とお顔を洗いましょう」


 はーい、とルイスは大きくうなづいた。

 一方でベルは、逆側からエイブラハムとサリーに合図を送る。


「じゃあ入りましょうか」

「そうだね」


 並んで腕を組んで。

 あまり最近はしなかったことだが、ここでは自然にできる気がする、とサリーは思う。

 そして草原へ向かって。


「貴方達もそろそろ戻りなさいな!」


 母親として大声を張り上げた。



 ヘッティとマーシャはその頃、倉庫の中をチェックしていた。

 保存が効くものはある程度既に管理人の手配で持ち込んであるという。


「だけど変よねえ」


 ヘッティは小麦粉の袋の数を帳面に付けながらつぶやく。


「何が?」

「管理人」

「別のところに住んでいるんじゃないの?」

「それでも、旦那様や奥様に挨拶しないといけないんじゃないの? 鍵だって」

「先渡しだったのかなあ。……っと、パン用はこれで全部、と。それと、砂糖に、じゃがいもに……」

「手紙が来たんだと」


 ガードルードはは腰に手を当てて、部下達の様子をうかがう。


「どれ」


 帳面をひったくり、棚やら床やらの袋と見比べる。


「まあとりあえず今日の夜は、昼の代わりに持ってきたローストビーフだね。ベーコンはあるから朝はいいが、お昼の肉の用意が無いのが何だね。卵はあるようだが。パンを焼くのは明日にして……」


 などと、今からできるものをさっさっ、と指示する。


「手紙だけですか!?」

「ああ。とりあえず一週間は間に合う様に詰めておく、その後はまた補充しに来るとさ」

「牛乳とかはどうするんでしょう?」

「うーん…… まあ、ある程度は冷蔵庫に入れてある様だしね。牛舎は無いのかね、その辺りだけどうも気になるんだがね……」


 そう、大概カントリー・ハウスというならば、牧場や農場がすぐそこにあっておかしくはないのだ。

 ただ、どうもその気配が薄い、とガードルードは思っていた。

 とりあえずは用意してきているドライ・イーストでパンは多めに作っておかねば、と彼女は思う。

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