7 一日目③ レンジに火を入れて
「よしまず火を入れなくちゃ」
ガードルードは幌馬車での睡眠が役だったのか、即座に仕事を始めた。
彼女は荷物を頼むよ、とヘッティとマーシャに言い置くと、まず東側の使用人棟へと走り込んだ。
そして手早く上着を取ると、下に着ていた作業着の上にエプロンをつけ、キャップをつけた。
何よりまず、人が住んでいなかったところはレンジの火が消えている。
それを点けないことには仕事にならない。
彼女はそのためにしっかりと睡眠をとっていたのだ。
形はやや違えど、機能にそう変わりは無い。出発前に聞いていた、十年くらい前に少し改良式のものに変えた、という話は嘘ではなさそうだ。
彼女がそうこうしているうちに、他の二人がやってきた。
「ガードルードさん~荷物持ちすぎですよぉ」
「何言ってるんだね、若いのが」
とは言っても、とヘッティとマーシャは顔を見合わせる。
彼女達の細腕と、ガードルードの筋肉がしっかりついたそれとは年季が違うのだ。
「さてさてまずは一息つく皆さんへのお茶だね」
すぐに菓子を作るだけの時間は無いので、そこは既に出来合いのものを温めるだけにする。
その出来合いもある程度街を出る前に用意しておいたものだった。
自分達が作ったばかりのものを誉められるのは嬉しいが、まずはあるもので満足を、だ。
茶葉と、ケースにしっかり詰めてある子供の拳骨くらいのスコーンを取り出すと、湯を沸かし、温める用意をする。
「ヘッティ、旦那様達の様子をあっちの連中に聞いてきておくれ」
「はーい」
ヘッティはハウスメイド達の方へと向かう。彼女達は使用人棟の上で、身支度を慌てて整えていた。
荷物をダグラス達男手が下ろしている間、エメリーとベルは手早く着替え、次の作業に取りかかろうとしていた。
若い二人は男手の手伝いである。
「応接間をさっと見に行くわ」
言い忘れたが、この館は広すぎる程広いという訳ではない。
確かにカントリー・ハウスではあるが、それはその場で領主として住むというよりは、郊外の別荘に近い感覚のものだった。
確かに街の家より平面的には広い。
だが高さは無いのだ。
「階段を上り下りする手間が少ないのはありがたいわ……」
エメリーは到着した時、そう思ったものだった。
何せ普段は三階四階とあるのだ。敷地をとりにくい分、高さが増すのが街の館。それに比べると、上り下りが少ない、そして自分達使用人の棟が同じ平面にあるのがありがたい。
おかげでエメリーとベルの足取りも軽い。
ハタキとクロスとほうきを手にすると、ともかく主家の人々がすぐに休むことができる様に用意をするのだ。
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