6 一日目② りんご並木が見えてくる

 二、三度の休憩を挟み、それまでの広い道から少し外れると、唐突に風向きが変わった。


「この道をまっすぐ行けば、そろそろだな」


 エイブラハムは地図を見ながらそう言う。


「ねえねえお父様、確かりんごの木が続いているんでしょう?」

「そうだな。今だとどうかな、花じゃなくて、そろそろ若い実がついているか…… 花だけじゃ品種までは判らないからな」

「あら、じゃあもう実が生っているかもしれませんの?」


 サリーは夫に問いかける。


「うん。りんごの花の白とピンクの可愛いものは昔よく見たんだが、生ってる時期には大概僕等は別の場所だの、試験勉強だので大変だったからな……」

「父さんも試験勉強大変だったんだ」


 さすがに目が疲れたウィリアムは本を閉じて膝の上に乗せている。

 小さなルイスは揺られ疲れたのか、うとうとし始めていた。


「そうだな、……まあ、たぶん、今のお前よりは成績は悪かったな」

「そうなんだ」

「私は寮生活だったからな。勉強よりまずスポーツだったかな」

「へえ! 何なに、クロケット? ボクシング?」

「いや、ボートだ」


 息子は意外、という顔をする。


「何だその顔?」

「いや、父さんにも学校の青春があったんだなあ、と……」

「何を言う」


 そう言ってこん、と軽く拳固で息子の額をこづく。


「父様、もしかして、あれ?」


 マリアは身を乗り出して指さす。どれどれ、と父親は逆方向の窓から見渡す。彼の記憶では、両側に林檎の木はあったはずだった。


「……大きくなったなあ……」


 彼はしみじみと言う。

 彼がまだ、ウィリアムくらいだった頃には、もっと小さな木々がずらりと並んでいただけだったと思っていたが。

 緑豊かな木々が、大きい馬車一台分の道に続いている。

 しかもその緑の間に間に、赤い色がちらと見えている。



「うひょう!」


 りんごの並木を横に見ながら、イーデンは声を上げた。


「こりゃまた、ずいぶんとぴかぴかした実が生ってるねえ! 手を伸ばしゃ取れるんじゃねえの?」

「やめとけよイーデン、ここで転がり落ちても俺ぁ拾わんぜ」


 普段は馬丁をやっているフロックスがこの日は御者も兼用だった。

 前の四人乗り二台には専門の御者二人がついている。


「りんごが生ってるって?」


 幌の中からガードルードが身を乗り出してきた。


「へえ、こりゃ凄いもんだ。小さめだから、パイに入れるかジャムを作るか…… 味見しないと判らないけどね」

「はいはいはーい! ジャム作り賛成でーす!」


 マーシャが手を挙げた。


「パイいいなあ……」

「そそるねー」

「……」


 ダグラスは次々と甘いものの名を挙げ出す女達を見ながら、やや呆れていた。

 まあ自分には関係の無いことだ、と思いつつ。

 彼は甘いものは好きではない。 

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