7、塔からの脱出

7、塔からの脱出の後の災難

砂埃が消えた後は、恐怖に慄く人々の顔が目に入った。

僕は愕然とするけど、彼女にそんな素振りはない。


風の魔法で吹き飛ばしたのは外壁と、隣の部屋の壁だったようだ。


きっと彼女は初めから知っていたのだろう。

ここに攫われた人達がいることを。


何事だ!と階段を駆け上がる男たちの足跡と声が聞こえてくる。

時間の猶予はない。


「サラ様!飛び降ります!」

僕は彼女の手を握り、吹き飛ばした床のギリギリに立つ。


結構高いな。

どうやらここは塔のようで、かなりの高さがあった。


だけど風の魔法で落下速度を遅くすれば、飛び降りれない高さでもなかった。


「必ず助けに来ます」

凛とした横顔。

彼女はそう人々に言うと僕を見つめる。


ああ、彼女は王女なんだなと、ふっと感じる。

この国を守り導く、次代のリーダーなのだと。


でも今はそんな感傷に浸っている時間はない。


「行きましょう、セリ様」


僕は頷き、彼女を膝から抱える。


「えっ、ちょっ!?」

いきなりお暇様抱っこのような体制に慌てているのが分かる。


だけど、そこを気にしている時間の余裕はなかった。


僕は勢いよく飛び降りる。


風の魔法を操り、出来るだけ抵抗少なく地面に着地できるように。

一瞬のような永遠のような、ゆるやか時間と風。


無事に地面に着地する彼女を降ろした。

と、彼女は僕に笑顔を向ける。


「セリ様、すごいわ」

「・・・なんとかうまくいきましたね」


僕はほっと安堵する。

だけど事態は、切迫していた。


塔の1階のほうにも男たちがいたのだろう、剣を握り、僕たちに向かってきた。


きーーんっ!


剣と剣がぶつかり合う音。

サラ様は太ももあたりから、隠し持っていた短剣を出し、男の剣を受け止めていた。


「サラ様!」

「もう、迷いません。必ず貴方を助けます」

そういうと男1人をあっという間に気絶させた。


す、すごい。

剣の腕はからきし駄目な僕だけど、彼女の腕前は相当なものであると分かる。


倒れた男から剣を奪うと両手に構えて、やってくる男たちを次々と倒していく。

その姿も何とも美しく、僕は見惚れてしまった。


だけど後方から弓矢を構えてる男たちが見えると、火の魔法を詠唱短く指先で球体を作ると男達に投げつける。



「ーーーお嬢様!!」

「ヨウ!」


遠くから聞こえる聴き慣れた声。


「セリ様!」

ダイフの声も聞こえる。


複数の人の足音や馬の蹄の音と声。

それも段々と近づいてきているのが分かる。


ああ、何とかなった。


途端に、僕は体から力が一気に抜けるのを感じる。

や、やばい。

短時間に魔法の使い過ぎた・・・。


立っていられなくなり、その場に崩れ落ちる。


「セリ様!?」

「セリくん!!」

「セリ!!」


彼女の綺麗な声と、聞いたことのある声。

そして最後の声は・・・。


漆黒の装束に身を包み、必死に僕を呼ぶ声。

見慣れているはずなのに、見たことない出立ち。


カル兄・・・?


僕はそのまま意識を手放した・・・。



*******



目を開ければ見慣れた天井。

僕はあたりを見回す。


ああ、僕の部屋だ。

途端に安堵する。


「よう、セリ。目が覚めたか?」

ベット脇には椅子があり、カルテーヌはそこに座っていた。


「ああ」

僕は枕を背もたれに上半身を起こす。


窓の外は夕焼け。

どれくらい眠ってしまったのだろうか。


「――お前はまったく、無茶をするなあ」

カルの眼差しは優しい。


僕の頭をポンっと叩くと、優しく微笑んでいる。

仕事終わりなのか、騎士団の制服を着ていた。


「どれくらい眠てた?」

「3日くらいかな」

「3日も・・・」


それだけ魔力を使ってしまったということか。

僕は溜息をつく。


まだまだだな。

あれくらいで倒れてしまうなんて。

そこではっとする。


「お、王女様は?!」

「勿論無事だよ」

「良かった・・・」

「あと、塔に幽閉されてた街の人も全員無事だよ」

「そっか・・・」


壁を壊した先には無数の人々がいた。

怯えた目で僕たちを見ていたのが、頭から離れない。


「盗賊も騎士団に捕まって、売り飛ばされた人達の行方を追っているところなんだ」

「お、お疲れ様です……」


なんとなく、距離感をもって答える。

カルが多忙で疲れてると感じたのかもしれない。


「騎士団でも、内定作業してた最中だったんだよ。そこにお前達が来るとは……」

「なんか余計に手間を増やしたみたいで……」

「まあ、王女様も捕まったとか驚いたけどな――あ、この話厳禁な。お前は屋敷の侍女と攫われたことになってるから――王女が拐われたなんて、国の評判に関わるしな」

「――分かった」

僕はうなづく。


カルの言う通り、王女様はあの場にいなかったというほうが良さそうだ。


「あー、女王からなんか話あるみたいなんだけどさ、その前に用事頼まれてくれはない?」

「――うん、いいよ」

僕は軽く返事する。


「母上が、今は領地に行かれてるの知ってるな」

「うん、確か一週間ほど前に出たはず」

「母の手紙によると、領地の様子がおかしいらしい」

「と、いうと?」

僕が聞くと、カルは母からの手紙を手渡した。


手紙の内容は、何かとてつもなく嫌な雰囲気がするという抽象的な内容だ。


「なにか分からないけど、嫌な感じがするってだけじゃあ、この多忙な時期に休めなくてさ。お前も全快ってわけじゃあないだろうけど、気分転換も兼ねて行ってきて欲しいんだ」

「うん、わかった」

「そうだった。学院の単位は――」

「それは足りてるから大丈夫」

「それなら問題ないな!来年研究所に行けなくなったら、方々から文句言われそうだし……」


後半は正直な何言ってるかわからなかったが、何か思い詰めたような感じである。


「カル?」

「いや、何でもない――田舎の空気でも吸ってのんびりしてこい」


この翌日、セリは馬車に揺られ王都を後にするのだが、カルの言うような、のんびりする――というのは幻想だったと悟ることとなる――。

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