4、温室での時間はとても幸せでした
この頃の私は今から思い出しても、恥ずかしいと思えるくらい有頂天だったと思う。
週に1度、彼を目の前で見れる幸せは何とも言えない幸福感だった。
侍女によってあらかじめ用意してもらった王宮の食事を食べながら、私は横目で彼を見ていた。
彼の食べる所作はとても美しかった。
ちゃんとご両親に躾されてきたと感じる。
色んな貴族と食事会をすることも多かったが、そんな風に感じたことはなかったのに。
彼は口数は決して多くはなかったが、私に対して敬意を払いつつも、率直な物言いをしていたと思う。
それは取り繕う言葉ではなく、心からの言葉だと感じた。
さすが魔法科の生徒というか、とても頭の良い方だと感じた。
会話の端々に、頭の良さを感じる。
最初はとても警戒していると思っていたが、何度かここで食事をすることによって徐々に笑顔を垣間見られて、ざわつく心を表に出さないようにするのが必死だった。
きっと昔から共にいて、控えてくれているヨウには筒抜けだったと思うけど・・・。
彼はこういった感情に鈍感なのか、気づいている様子はない。
短い昼休みでは足りない・・・もっと彼と触れていたい。
そんなことを感じ始めていた頃。
女王より、サーカス団が街に来ている話をされた。
特段興味はなかったのだけど、彼と行きたいと思った。
「あの・・・セリ様」
「何でしょう?」
食後のコーヒーを飲みつつ、彼はこちらに目を向ける。
何度か食事をしていて気づいたことは、彼はとてもコーヒーが好きだということ。
私自身今まで興味はなかったが、彼の目が輝くのをみて、ヨウと共に色々をコーヒー豆を集め始めた。
「祖母から、街にサーカス団が来ているという話を聞いたのです、それであの・・・」
私は俯いて、そして彼を見つめる。
「私と一緒に行きませんか!!」
その言葉に彼の目が大きく見開いたのが、分かる。
そして1つ溜息をついた。
「僕は魔法は得意ですが、武術に関しては得意ではありません。そんな僕が王女様をお守りできるとは思いません」
少し寂しげに彼が言っている気がした。
「ぶっ武術は!私が得意です!」
「しかし・・・」
「私が!セリ様をお守りします!」
「・・・はい?」
辺りが静かになる。
なんと的外れな言葉だろう。
私は顔が一気に赤くなる。
恥ずかしかった。
どうしてこんなことをいってしまったのか。
様子を察したように、ヨウがコーヒーポットを持って、セリ様のカップにコーヒーを注ぐ。
なんか彼に言葉を発したようだが、私の位置からは聞こえない。
「・・・わかりました。お受けします」
彼は諦めたかのように小さくつぶやいた。
「ご迷惑・・・ですよね」
彼の様子に思わず口にしていた。
「いえ、王女様のせいではありません。自分に自信を持てない、僕の---」
そう言いかけて、自嘲気味に笑う。
「忘れて下さい、今の言葉」
私はこくりとうなづく。
それ以外で彼を助ける術はないと思ったから。
だって、まだ私は彼のことを知らない。
そう実感した瞬間だった。
「それでは、また」
彼は来た時のように、用心深く周りを見渡してから温室から出て行った。
後ろ姿に見惚れつつも、ヨウが何と言ったか気になったが、彼と出かけれる喜びで私は有頂天になっていたと思う。
これがとんだ悲劇になるとは知らずに・・・。
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