第11話 ワラ

 日本人は、みんな小学校から大学まで長い時間英語を学ぶ割には英語を話せる人が少ない。で、自分もその中にいる。

 新入社員の頃、出張でたびたびアメリカに行く先輩が職場にいた。先輩はほとんどの社員が海外渡航をしたことがないことをいいことに、帰国すると必ず英語自慢をしていた。発音やイントネーションの誤りや不適切な使い方を指摘して優越感に浸るのが大好きな様子だった。

 例えば、「アメリカの飛行機に乗ったら、水が欲しい時にウォータープリーズなんて言っても水はもらえないからね。」てな話をする。そして、「ウオーターの発音は

日本人の耳にはワラって聞こえるような発音をするんだよ。」というようなウンチクを言う。

 数年後、幸か不幸かその先輩を伴って数人で米国出張に行く機会があった。航空会社は当時ノースワーストという噂のノースウェストだった。怖いオバ様の客室乗務員がコップの飲み物ががこぼれるような乱暴な置き方をするという噂があった。

 で、そのノースウェストの機内で機内食が放り投げられるように配られて食べた後、ウンチク先輩が食後に水を頼んだ。

「エクスキューズミー、ワラ プリーズ。」

 しかし、オバ様は「シュアー」とは言わず、怪訝そうな表情で肩をすくめた。そして冷酷にも何のフォローもせずサッサと立ち去った。先輩は目をキョトンとさせていた。

 暫くして、また同じオバ様がやってきた。今度は英語が話せない別の若い同僚が彼女にチャレンジした。

「エクスキューズミー、ウオーター プリーズ。」

明らかなジャパニーズイングリッシュだった。すると彼女は「シュアー、ミスター」と即答した。そして間もなく本当に水が届いた。同僚とは目を合わせ、思いっきり笑った。

 「ワラ」はアメリカ西部地区のナマリだとずーっと後で誰かに聞いた。

あの時のオバ様は、東部のクイーンズイングリッシュ地区の出身だったんだろうか。

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スカG オジャマ虫 @ojamamusi

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