第9話 禁じられた遊び

 1952年に作られたフランス映画「禁じられた遊び」は悲しい物語だった。

しかし、子どもの禁じられた遊びは本来ワクワクする楽しい世界なのだ。

 

 日本の戦後は国中貧乏だった。しかし貧乏は子どもにとって一つとてもいいことがあった。それは「自由」だ。大人はみんな食べる為に必死で、子どもに構う時間は少なかった。その結果多くの「自由」が子どもたちに与えられた。

 貧乏はあらゆる物資の不足ということでもあり、子どもが遊具を購入してもらうのは特別なことだった。だからみんなあり合わせの材料で手作りした。いつの時代も子どもは好奇心が旺盛だから、男の子は危険な遊びや遊び道具に興味を持つ。

 侍、忍者、警察、兵隊ごっこをやれば刀や弓矢、手裏剣、ピストル、ライフルが必要になってくる。で、それを作りたくなる。

 「自由」が保証された時代、子どもたちは限りなく「本物」作りを目指した。

刀は木を削り、木刀らしき攻撃力のあるものを作った。弓矢は竹を使い威力のあるものを作った。手裏剣は空き缶のフタを金切り鋏で切って板塀に突き刺さるように作った。ピストルやライフルは壊れた傘の金属の柄の部分を改造し、2B弾(爆竹花火)を元込めし、先端にはリベット鋲をセットし弾丸が飛ぶように作った。狩猟をやっている家から散弾銃用の黒色火薬をその家の子どもに盗みださせ、それを万年筆のキャップに詰めてミサイルまでも作ったりした。太い針金と丈夫なゴム紐を材料に作ったパチンコは鳥や野兎を捕れるぐらいの性能があった。

 自由なスペースもたくさんあった。廃工場の中で、広い空き地で、誰も来ない山の中で危険な遊びを散々やった。危険性が高いほど遊びは楽しく、ドキドキワクワクしてスカッとした。

 人に迷惑をかけてはいけないという同調圧力が行き渡り、今の世では「禁じられた遊び」は根絶された。それをやれば重い懲罰を受けることになるが、それ以前にそんなことをやる子どもはこの世にはいない。

 カレンダーの紙を折り重ね、先端を切先状にカットし、厚紙で作った鍔を付けた「鬼滅の刃」に出てくる刀を子どもに作ってあげた。子どもはとても喜んでいたが、母親は嬉しそうな顔はせず、ペラペラした紙のしかも丸くカットした切先が危険ではないか確かめていた。

 平和憲法の功績かもしれないが、戦争になったら闘う者は誰もいないのではないかと思う。

 


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