第324話:新たな聖域管理者たちとの別れ
イエズヴェンド永久氷壁が
再び氷壁を構築している氷という氷が
「これが
ビュルクヴィストが
≪我が子ビュルクヴィスト、エランセージュ、そなたたちに我からの贈り物だ≫
その声はモレイネーメの心を通じて聞こえてくる。
≪とりわけ、我が子エランセージュよ。そなたには
エランセージュはその名前を前にして
≪真の
エランセージュの心に藍碧の魔力が流れ込んでくる。
≪キアラルヴュル様、幼かった私に
跪いたまま頭を下げるエランセージュをキアラルヴュルはモレイネーメを通し、
≪我が子エランセージュよ、そなたが大成するところを見られぬは
知らず知らずのうちにエランセージュの瞳からは止めどなく涙が
別れが辛いことぐらい知っているはずなのに、まるで両親を失ったかのように心が
≪我が子ビュルクヴィストよ、贈り物といってもそなたに
≪いえいえ、とんでもございませんよ。キアラルヴュル殿、私にはまだまだやりたいこと、やらねばならないことがあります。今ここで聖域の管理者になるわけにはいかないのですよ≫
僅かに無理をしているのが分かる。ビュルクヴィストは人族の一人であり、最強の魔術師と呼ばれている基準はあくまで今の主物質界においてのことだ。
≪我が子ビュルクヴィスト、そなたは優しい
モレイネーメの身体の動きをもってキアラルヴュルの意識がエランセージュに向けられる。モレイネーメが
≪我が
たちどころにビュルクヴィストを中心にして魔術陣が描き出されていく。
それはまさしく澄み切った
瞬時の
異なるのはエランセージュの
その様を凝視するエランセージュの瞳は美しい瑠璃に染まっている。
ここからが魔術の本番だ。描き出した魔術陣を天の陣、地の陣に分離させていく。その行程さえ
圧倒的速度をもって魔術陣が天と地に分かたれ、ビュルクヴィストを
≪これこそが真なる王陣だ≫
エランセージュの心の中に刻まれた根源が訴えかけてくる。自身の魔力を根源に寄り添わせる。
天の陣、地の陣それぞれが五芒星を内包している。その五つの頂点をもって、さらなる魔術陣が創り出されていった。
さながら天と地の陣を中心にして、五枚の魔術陣の花びらが咲き誇ったかのようでもある。
今のエランセージュは絶望を感じている。王陣と思っていた天と地の陣が、実はさらに十の魔術陣を付加構築してこそだった。
そして、真の
天の陣を構成する花びら部分、五つの魔術陣が直角に折れ曲がり、垂れ下がる。
真逆に地の陣を構成する五つの魔術陣もまた直角に折れ曲がり、振り上がる。
花びらと花びらが手を結び、ここにビュルクヴィストを完全内包する真なる王陣が完成を見た。
天より降り注ぐ
真なる魔術が発動する。
「こ、これは。まさか、このようなことが。信じられません」
ビュルクヴィストは
オペキュリナの託宣によって失った
凄まじい速度でビュルクヴィストの左肘から下の部位が肉体を
「恐ろしいばかりの力ですね。これが真の
すっかり元どおりになった左肘から下の部位を何度も何度も振りながら、血が通っている感触を
見つめてくるエランセージュの視線を感じ取ったのだろう。いささか恥ずかしげにビュルクヴィストが応じる。
「何ですか、エランセージュ嬢。その目は、全く貴女は、仕方がありませんね。それよりも、真の
問われても答えようがない。それがエランセージュの本音だ。
今のままでは到底不可能なのは言うまでもない。圧倒的に魔力が足りない。補う手段はあったとしても、真の王陣に
≪我が子エランセージュよ、根源はそなたの中にある。見事開花させてみせよ≫
未だ
エランセージュだけではない。モレイネーメも、ゼーランディアもガドルヴロワも等しく跪き、キアラルヴュルの最後の言葉を待っている。
≪数千年を経て、ようやく混沌に
氷を輝かせていた藍碧の美しさが静かに失せていく。あたかもキアラルヴュルが安らかな眠りに落ちていくかのようでもあった。
≪キアラルヴュル様、貴男様に最大限の感謝を捧げます。この聖域は必ずや私とゼーランディア、ガドルヴロワの三人で守護していきます≫
モレイネーメの心の中でキアラルヴュルが頷いたように感じられた。
藍碧の輝きが完全に収束、氷がもとの美しさを取り戻す。聖域には静寂が訪れていた。
「ビュルクヴィスト様」
それら全てを
藍碧の魔力によって染め上げられたモレイネーメの何と
「モレイネーメ、ここまで苦労しましたね。そして全てが
ビュルクヴィストの視線を受け止めたモレイネーメが何度も頷きながら
「ゼーランディア、ガドルヴロワ、よかったですね。キアラルヴュル殿のお言葉どおりです。血の
涙を
「ビュルクヴィスト様、ありがとうございます」
姉に続き、ガドルヴロワもまた丁重に礼を述べると、おもむろに
「ビュルクヴィスト様、私はここから一歩も離れられません。これをソミュエラに渡していただけないでしょうか。教える約束でしたが、もはや叶いません。それ
エランセージュは驚きの眼差しでガドルヴロワを見つめている。いつの間にそのようなことを、といったところだろう。
「そうでしたね。ソミュエラ殿は残念がるでしょうが。私が受け取っておきましょう」
ビュルクヴィストの指が軽く振られ、宙に円を描いていく。ガドルヴロワが創り上げた魔力塊はその中に吸収されていった。
「エランセージュ嬢、戻りましょう。戦いも
エランセージュがこれ以上ないというほどの真剣な瞳をもって、
モレイネーメがエランセージュの魔術発動を
「モレイネーメ、ゼーランディア、ガドルヴロワ、ここでお別れです」
三人が
(レスティー殿のお気持ちが少しだけ分かるような気がしますね)
「ビュルクヴィスト様、エランセージュ、お二人にも最大の感謝を。聖域は、我々は、お二人をいつでも歓迎いたします」
ビュルクヴィストは笑みを浮かべ、エランセージュは頭を下げる。
「機会があれば立ち寄りますよ」
その言葉を最後に、ビュルクヴィストとエランセージュは魔術転移門の中に消えていった。二人が入るや、漆黒の空洞がゆっくりと閉じていく。二人の視線は片時も離れず、モレイネーメたちに注がれている。
「ビュルクヴィスト様、私は貴男の弟子で幸せでした」
その想いはきっとビュルクヴィストに届いたに違いない。
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