第7話 偽りの家庭教師事件


 親父のキャベツは、学歴にこだわる男です。


 長男の林太郎が、中学三年生の時、遊びすぎて、成績が著しく、落ちてしまったことで、担任の教師に

「今の成績では、推薦で私立が望ましいです」

 と三者面談でお袋のレタスに伝えました。


 帰宅したキャベツにそう告げると、憤慨して、夜中なのに林太郎を叩き起こし、こう言います。


「お前! 俺の息子が私立とか許さんぞ! 絶対に公立にいけ! 受験に失敗したら、家から出てけ! そして、働け!」

 とキレたそうです。


 慌てて、長男の林太郎は、受験勉強を毎日頑張りました。

 キャベツが帰宅すると、ビール片手に、勉強を教えます。


「バカ野郎! なんで、こんなつまらん問題で間違えるんか!?」

 そう言って、林太郎の頭を叩きます。

 泣きながら兄は、「ごめんなさい」と勉強を必死に続けます。


 その甲斐もあってか……というより、キャベツの暴力に対する恐怖から、林太郎は勉強を一年間頑張って、見事、公立高校に合格することができました。


 これで、平和を取り戻したかのように思えましたが。

 数年後に、次男の三太郎が高校受験をすることになり、また悪夢のような日々が舞い戻ってきます。


 三太郎という人は、所謂『グレーゾーン』な子供でした。

 本当ならば、今でいう支援学級が必要な子でした。

 幼稚園の時に、そういうサポートをしてくれる施設でお袋のレタスに薦めてくれたのですが、やはり親父であるキャベツが見栄で、その提案を突っぱねました。

「なんで俺の子が知恵おくれのクラスに行くか!?」と。

(差別発言で、不快に思われた方がいたら、申し訳ありません)


 なので、三太郎が長兄みたいに公立の高校へ受験することは、難しかったようです。

 担任の教師に、「推薦で私立高校じゃないとかわいそう」とまで言われましたが、やはり見栄が邪魔し、「俺が教える」と言いだしました。


 年末年始、本当ならクリスマスやお正月の楽しい時期でしたが、我が家は冷えきっていました。


 怒号と泣き声を繰り返し、一時の間、静寂を許しますが、再び、怒鳴り声があがります。


 キャベツは、ビールを飲み終えて、焼酎のお湯割りを片手に、三太郎を容赦なく叩きます。

「バカ野郎! なんでこんなアホみたいな問題が解けないのか!?」

「うわぁん!」

「泣くな! ちゃんと勉強しろ! 真面目に覚えろ!」

 そう言いながら、三太郎が間違える度に、頭を平手でブッ叩きます。


 酒を飲んでいるし、怒りで叩き方も速くなるし、力がどんどん強くなっていきます。


 これが冬休みの間、連日続きました。年を越しても、朝から深夜まで。

 教えるのはまだ良いとして、飲酒をやめないので、教え方がどんどん雑になっていきます。


「また間違えやがって! このバカがっ!」

 その瞬間でした。

 怒りにより、力をコントロールできなかったのか、三太郎の頭が流れ星より早く、テーブルの角に鼻をぶつけてしまいます。


「痛ぁい!」

 吹き出す大量の血。

 ノートが真っ赤に染まります。


 さすがにまずいと思ったのか、お袋のレタスが止めに入りました。

「ちょ、ちょっと、鼻の手当てをしないと……」

 キャベツがブチギレます。

「うるせぇ! お前は口を出すな! このぐらい、なんてことない! 三太郎、ティッシュを詰めて、早く勉強しろ!」

「うわぁん!」

「いいから早く続けろ!」


 三太郎は、朝から晩までご飯を食べることも許されず、暴力と恐怖に脅えていました。

 成績は上がるどころか、下がる一方で、結局、キャベツが教えるのをあきらめることにより、平和が戻ってきました。


 しかし、僕のいとこに女の子がいて、キャベツからすると、姪のなのですが……。


「おいちゃん、わからんけぇん、教えて~」

 すると、鼻の下を伸ばしてこう言うのです。

「どれどれ~ おいちゃんに任せておけ」

 と、めちゃくちゃ優しく教えていました。


 ああ、理不尽……。

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