第4話 V・エイチ・S事件
皆さんはVHSなるものをご存じだろうか?
若い読者の方は、知らないと思うので……。
今ではDVDやブルーレイすら、不要になりつつ感じる。
僕も動画配信サービスで観ていて、HDDレコーダーに録画すら面倒な時がある。
いい時代になったなと思う。
1990年代初頭、時代はVHSで盛り上がっていた。
自宅で映画を好きな時間に観れるというのが、とても斬新で魅力的な家電だと思った。
映画が好きだった僕は、レンタルショップが近所の近くにあるというのに、好きなアニメや映画をかりてくることができない。
なぜならば、肝心のビデオデッキがないからだ。
もちろん、父親のキャベツの意向である。
その理由は「勉強しなくなる」「バカになる」
と根拠のない考えでだ。
だから、僕たち三兄弟は絶対に生でテレビを見ないと、一生その番組を見逃すことになる。(当時)
どれだけトイレに行きたくても、CMになるまでテレビから離れない。
キャベツはビデオがあると勉強しなくなるなんて言うけど。
兄弟みんなそれに従ってるから、宿題とか受験勉強しなきゃいけないのわかってるのに、観たい番組の時間になると、机から自ずと離れる。
下手したら30分どころか、1時間はテレビとにらめっこ。
だから、気がついたら夜の10時までお笑いだとか、アニメを見ていて宿題ができないことは、ざらだった。
つまり効率が悪い。
学校の友達なんかに聞くと、「昨日のアニメ? お母さんが録画してくれてるから、週末まとめてみるよ」なんて答えられる。
クラスでも僕だけがビデオデッキを持っていなかった。もちろん、スーパーファミコンもだ。
それから数年後、父親のキャベツがある日、いきなり「買い物に行くぞ」と言って、近所の家電屋に僕と次男の三太郎を連れていった。
こういう時、キャベツは絶対目的を言わない。
なんでかは知らないが。
最新のブラウン管テレビやビデオデッキが店内に並ぶ。
三太郎が僕にこう言う。
「なあ幸太郎。もしかしてお父さん、ビデオ買うんじゃないか?」
「まさか……」
だが、僕も心のそこでは期待していた。
キャベツはじっとビデオデッキをながめる。
しばらくすると、店員に声をかけ、「これをくれ」と注文した。
僕と三太郎は顔を合わせ、互いの手を叩き、人目も気にせず、売り場で踊って喜んだ。
「これで生放送縛りから解放される!」
「映画やアニメがやっとレンタルできる!」
帰宅して、すぐに母親のレタスに僕たちはこう言った。
「お母さん! うちにビデオが来るよ!」
興奮気味の僕たちと違い、レタスは冷静に料理をしていた。
「え? なんのこと?」
「お父さんがさっきビデオデッキ買ってくれたよ!」
「ビデオ? ああ、それうちのじゃないわよ」
「どういうこと?」
「お父さん、単身赴任決まったから自分用じゃない?」
「……」
僕と三太郎は言葉を失った。
母の言う通り、キャベツは単身赴任が決まり、快適なシングルライフを過ごすため、最新の家電を揃えていた。
そして一週間後、ビデオデッキは開封されることなく、引っ越し業者が持って行ったのである。
今、考えると……まあキャベツも男だから、V・エイチ・Sが必要だったのだろう……。
ああ……理不尽。
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