第2話 歩道橋事件


 親父のキャベツを似顔絵に描くとする。

 自然と、僕は眼鏡を描く。

 なんだったら、大根に眼鏡かけたら親父として認識してしまう。


 それぐらい眼鏡の印象が強い。

 僕が産まれてからずっと近視か乱視かで眼鏡をかけている。

 眼鏡かけないときは、サングラス。

 いつも睨んでるからおっかない。


 長男の林太郎と三男の僕は目が良い。

 母親のレタスに似たんだろう。

 だが、次男の三太郎だけ視力が悪い。

 まあこれは持病が関係していて、網膜剝離とかだから、どうしようもない。


 キャベツの母、つまり僕かしたらおばあちゃんがいつも言う。

「あんたたちはゲームのしすぎで目が悪くなった。でも、お父さんは違う。勉強のしすぎで目が悪くなった」

 そう自慢げに息子を語る祖母。

 僕は毎回それを聞いて苦笑いしていた。

 

 だって、ゲームは幼少期にキャベツに破壊されたし、僕と林太郎に関しては視力は良い方だ。

 キャベツは生まれつき視力が悪いと聞いた。


 しかし、本人は眼鏡をコンプレックスに感じているところがあるようだ。

 仕事中は眼鏡をするが、プライベートではブランドもののサングラス。


 若いころ、まだお袋のレタスと結婚する前。

 デートをしていたそうだ。

 1960年代、ミニスカートが流行りだして、街中それはそれは、丈の短い女性が多かったという。


 もちろん、お袋のレタスも超絶ミニスカを履いていたそうな……。

 当時はまだ横断歩道、信号なんかが少なくて、歩道橋が多かったらしい。


 キャベツがレタスに言う。

「喫茶店でも行くか?」

「そうね」

 二人して、歩道橋を渡ろうとする。

 この時、キャベツはお袋に格好良く見られたいのか、眼鏡はかけてない。


 そして、階段を登ろうとしたその時だった。

 上を登っている若い女性の姿に気づく。

 もちろん、ミニスカだ。

 それに気がついたキャベツは何を思ったのか、ズボンにしまっていた眼鏡ケースを取り出し、ササッと素早く眼鏡をかける。


「はぁ~」

 口を開いて、ボーッと眺めるらしい。

 隣りにミニスカのパートナーがいるのにだ。


 お袋が言うには、こんなことが毎回だったそうだ。

「だったら最初から眼鏡しとけよ」

「私が隣りにいるのによ!?」

 そう僕に訴える。


 だから、僕はいつもおばあちゃんが言う

「勉強のしすぎて目が悪くなった」

 という言葉に違和感を感じる。


 ああ、理不尽……。

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