第29話 RINE、実は神アプリだな!

 翌朝。俺はベッドに座り、スマホの待ち受け画面を見つめていた。


 九時五分。


 小石の頭痛は治まっただろうか。RINEリネしてみようか……でも、もし寝ているところを起こしてしまったら悪い。


 俺はかつて、RINEがあまり好きではなかった。

 既読したら発生する、『速やかな返信』という責務感。中一の時、特にクラスのグループトークがわずらわしかった俺は、『読まなければいい』という境地に達した。

 それ以降、RINEのプッシュ通知はずっとオフにしていたが、


 ピロン。


 一昨日おととい、三年ぶりにオンに戻した。さらに昨日の夕方には通知音もオン、マナーモードも解除した。

 もちろん、その原因は――


(小石だ!)


 プッシュ通知を、はやる気持ちでタップする。


 小石『昨日はごめんね、

    たいちゃんと遊んでくれてありがとう』


 責務なんかじゃない。俺はただ小石の体調を知りたくて、即返信した。


 椋輪『頭痛は治った?』


 小石『もう大丈夫だよ、ありがとう

    れん君今何してる? 電話してもいい?』


(小石と初めての通話……だと!?)


 もう結構直接話しているが、姿の見えない音声だけの通話となると、それはまったく別物で緊張する。が、断る理由なんてない。俺は通話ボタンをタップした。


『もしもし』 


 呼び出し音からすぐに切り替わった小石の声。こんな日が来ようとは。


『あのね、昨日のDVDの感想を聞きたくて』


「あ、そうか。えっと――」


 俺たちは各役の演技をはじめ、音響に照明、大道具や小道具、カメラワークについてまで、お互いの感想をひととおり言い合った。

 そして俺は、昨夜ふと思いついたことを口にした。


「あのさ、二学期になったら、去年の椿高つばこうの卒アル見てみないか?」


『えっ? 見られるの?』


「司書室に、歴代の卒アルが保管されてるんだ。俺、図書委員だから知ってるんだけど。

 太巻おおまき先生のメイク、そこまで濃くないと思うし……もし卒アルに『彼』がいたら、ノーメイクでもわかるかなって。それらしい人が全然いなければ、今年の二、三年生だって断定くらいはできるし。

 まあ、十月になればことさんに聞いて全部わかるんだろうけど」


『蓮君、ありがとう! 私、少しでも早く知れることがあるなら、知りたい!!』


「わかった。じゃあな、小石」


『うん。またね!』


『〝音声通話が終了しました〟』


 小石とのやり取りの履歴が、また一つ増えた。彼女からのメッセージはもちろん、こんな無機質な一文さえ宝物のように思える。

 このトークルームは、いわば俺の『宝物庫』だ。


(RINE、実は神アプリだな!)


 ピロン。


 玲菜れな『珍しいね電話なんて』


「は……?」


 俺はすぐさま隣の妹の部屋に駆けつけ、ドアを開け放った。


「盗み聞きするな!」


「あたし、『じゃあな、小石』しか聞いてないよ? 音楽聴いてたから。

 ねぇ、それより小石君て、昨日会ってた友達? イケメン!?」


 こいつは目をぎらつかせて何を期待しているのか、小石を男だと思っているらしい。まあ、詮索されたくないし、そのほうがいいか。


 小石のカチューシャ編み込み、純白シャツワンピ姿を思い出す。

 あぁ……。


「――昨日の小石は、最っっ高にイケてた」

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