第8話 瞬間、妙案が頭に浮かんだ
自分が観ていたころとは、オープニングもエンディングもすっかり変わっていた。二十数分間の視聴を終え、停止ボタンをクリックする。
結果、剣蔵は頭のキレる、突っ込みの鋭いキャラクターだということがわかった。年齢は十六歳。
そして昨日、小石にセットされた自分の前髪は、やはり剣蔵スタイルだったらしい。彼の後ろ髪は、短めのポニーテールのように結われていたが、前髪は昨日の俺そのものだった。
あと、少し気になったのは剣蔵の目だ。確かに俺は、つり目だという自覚がある。しかし彼の目は『俺、こんなに目つき悪い?』と思うほどだった。まあ……デキるキャラクターみたいだし、似ていると言われて悪い気はしないが。
ふと、また小石の言葉を思い出す。
――『
そう言った彼女の、曇りのない笑顔……
「!!」
瞬間、妙案が頭に浮かんだ。
(もし、学校で寺子屋の話ができる相手がいたら――小石は、かなりうれしいんじゃないか?)
思わず、小石が自分と楽しそうに話している姿を想像し、心が躍った。俺としても、彼女と
(よし、もっと寺子屋を観よう!
……そうだ、忘れないように感想もメモしていこう!)
すぐさまノートPCをベッドから机に戻し、椅子に座る。そしてシャープペンに消しゴム、未使用のノートを用意すると、背筋を伸ばして第二話をクリックした。
***
「ただいまー」
玄関から聞こえたその声に、いきなり現実世界に引き戻された。
部屋の窓からは、オレンジ色の西日が差し込んでいる。壁掛け時計を見ると――六時すぎ。
(うぇっ? もうこんな時間か!)
現在、第二十四話の途中である。今に至るまで、昼食やトイレ休憩以外、ずっと寺子屋の視聴を続けていた。
いったん視聴を中断し、椅子に座ったまま背伸びをする。
すると突然、自室のドアがガチャっと音を立てた。
傍若無人に入ってきたのは……俺をアニメの世界から引き戻した声の主だった。
「暑かった〜。ちょっと涼ませて」
半袖、ショートパンツの縦巻きツインテール。こいつの顔もまた、自分とよく似たつくりをしている。
「なんだよ、リビング行けよ。てか、ノックぐらいしろ」
「あ、ごめん。そういう動画観てた?」
――本当に可愛げのない妹だ。
「違う、健全なアニメだ!」
「もしかして……一日中、エアコンの効いた部屋でアニメ見てたの?」
憐れんだ目で聞くこいつは、さぞ充実した一日を過ごしたのだろう。
「……なんか悪いか?」
「三連休、どっか行ったりしないの?」
「特にしないな」
はぁ、とため息をついた妹が、俺のベッドに座る。
「蓮も高校生になったんだから、彼女……とまでは言わないけど、友達と海とかお祭り行くとか、部活で汗を流すとか、なんか青春っぽい予定はないわけ?」
「おまえ……なんか母さんっぽい――」
俺が言いかけたとき、
「蓮、玲菜ー、夕飯にしよー?」
絶妙なタイミングで母の声がした。
「今行く」
「今行くー」
不覚にも、俺と妹の声がきれいに重なった。
夕飯時。
俺は今日観た寺子屋の、印象的だったシーンを思い返しながら黙食していた。
その最中、母と妹の間で『蓮』『友達』『青春』というワードが飛び交っていたような気がするが、気のせいということで。
俺の中で、衝撃や感動、笑えたあのシーンやこのシーン――小石は去年、それぞれどう思って観ていたのだろう。
(あいつに話を振ったら、きっと目を輝かせて語りだすだろうな……)
口元がゆるむ。
早く続きを見なければ。今日のペースなら、明日中にはシーズン三十に入れるだろう。
シーズン三十は今年四月からの放送分だから、観終わるのにそんなに時間はかかるまい。その後はシーズン一から観よう。
この思いついた予定により、三連休はあっという間に終了することとなる。
なお、母と妹からはそれぞれ、より残念そうな、より憐れんだ目で見られる羽目となった。
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