第5話 『アサヒメ』or『姫(ヒメ)』
それから数日が経ち、他のクラスにも七宮君の噂が広がり、学年問わず多くの生徒が彼を見に来たり直接話をしたりしていた。
そんな観光名物のような扱いをされても七宮君は本当に見事にどの相手にも柔軟に対応して、相手に受け入れてもらっていた。
そして、その週の金曜日には、少なくとも容姿や制服のことで彼に質問する人はいなくなった。
むしろ、もっと彼の誕生日、学力、部活や恋人有無情報といった個人の話へフォーカスされているようだった。
すでに仲良さそうな友人からは名前を呼び捨てにされる関係もできているのを見かけた。
七宮君の呼び方について、比較的珍しい苗字から、『ななちゃん』や『ななみゃん』と呼ばれているのも聞いた。
しかし、圧倒的に呼ばれているのはこれ。
その可憐な容姿と下の名前をもじっていて、みんな納得のあだ名。
『アサヒメ』または『姫(ヒメ)』
多くのクラスメイトは彼をその名前で呼ぶ。
そのたびに彼は普通に名前を呼んでよと恥ずかしがっているような照れているような苦笑いを浮かべていた。
この女の子より可愛い転校生『姫』の名は、この狭い学校中にすぐに広がり浸透し、七宮君はこの数日のうちに自分のポジションを手に入れていた。
そのぐらいこのあだ名は彼ことを表すのに適し過ぎていた。
ただ、私はそんな彼のことに関して、少しではない違和感を覚えている。
別に彼に対して嫉妬や恨みなんてものは一切ない。ただ、どうしてだろうとある疑問が湧いてくる。みんな気にならないのか。もしかして私以外はそれを知っているのかなとも思った。
しかし、どうにもこの違和感は厄介で、日を重ねるごとにその思いは私の体の中で大きく膨れ上がって、今にも口から出てきそうなのを抑え込むのに必死であった。爆発だけはさすまいと。
そんな変な葛藤も関係があったのか、それともへそ曲がりな神様の暇つぶしか、奇跡的にそして努力虚しくその時を迎えてしまった。
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