第4話 あーちゃんはブレない
私達のクラスに混乱が広がっている。
事前に先生からは男子生徒が入ってくるということを告げられていたため、男子は若干テンションが下がり、女子は品定めする動きに入っていた。
それなのに、私たちの前に現れた転校生はまごうことなき女の子、それもとても可愛い美少女だった。
当然、そのギャップを脳が上手く処理してくれない。その結果、教室中から上がったのがあのざわつきだったのだ。
その当時、私は可愛い姿に少し見惚れたが驚きはしなかった。
普通に考えると、単純に先生が女子生徒を男子生徒と呼んだだけだろう。それにいくら可愛くても男子生徒が女子用の制服を着ることなんてないし。そんなことはありえないだろう、と思っていたから。
それから七宮君は浅く一呼吸した後に、自己紹介を始めた。
「千葉県から引っ越してきました七宮朝姫といいます」
名前を言うとすぐに黒板側に振り返り、自分の名前とふりがなをチョークで書いた。
すごく綺麗な字。一字一字丁寧に書かれているし、私たちが読みやすいようにふりがなまで書いてくれる所がこの人の人となりが出ているなと好印象を持った。
ただ、続く言葉で私たちは本当に驚かされた。
「先生から紹介があったと思いますが、えっと、この女子の制服を着ていますが、私は男子です」
さすがに今度はみんなから驚きの声が上がった。かく言う私も小声ではあるが、短く驚嘆の声を上げてしまった。
七宮君は続ける。
「学校には家族含めて相談して、この形で受け入れてもらうことにしました。みんなには少し混乱させたり嫌な思いをさせてしまうかもしれないけど、これからどうかよろしくお願いします」
挨拶が終わった瞬間、一瞬の沈黙が生まれた。誰かが何かを発する前に担任からフォローが入る。
「七宮から説明もあったけど、学校側も理解して受け入れているのでみんなこれから仲良くしてください。では、七宮は窓際の一番後ろに座ってください。前にも確認したけど、黒板が見えづらい等あれば早めに教えてください」
そう簡単な説明をし、彼を自席へ座るように促した。あとはいつも通りのホームルームがとり行われた。
そんな解消しきれないモヤモヤをみんなが抱えたままのホームルーム終了後、担任が教室からいなくなると同時に七宮君の席にクラスメイトのみんなが押し寄せた。
転校生してきた彼に色々な事を聞きたいし、興味を持っている人は多い。なによりも、みんなが疑問に思っていることを何人かが素直に聞いた。
「ね、ねぇ、七宮……君は、本当に男子なの?」
まるで映画の中の地球に隕石が落ちてくることが信じられない人のような聞き方で。
七宮君は、その子の方を向いた。
「うん、そうだよ。まぁ、あんまりこんな女子の格好をしている人なんていないからビックリさせちゃってごめんね。色々あって今はこんな格好だけど、今後もよろしくね」
優しく人懐っこい笑顔とともに返事をする。途端に、その質問をした子の方が反対に焦る。
「う、うん! 全然、大丈夫! 私はすごくに似合っていると思うし、今は個性を大事にする社会だし。というか、七宮君ってすっごく可愛いよね。女の私よりもだいぶ可愛いよね」
それに七宮君は少し恥ずかしそうに答える。
「なんだか恥ずかしいけど、ありがとう。なかなか周りを困惑させてしまう格好だけど、そう言ってもらえると助かるよ。あっ、ごめんまだ名前を聞いていなかったよね。もし良かったら、名前を教えてくれない?」
そこからは段々と趣味や前の住んでいたところや引っ越し理由へと話が変わり、七宮君はすぐにクラスメイトと打ち解けていっているようだった。
私は少し離れた席で彼を見ていた。
話の輪に入っていなかったおかげか、彼がとても話をすることが上手だということに気が付いた。
話の聞き方や相づちのタイミングがすごく良い。それだけでなく話の流し方や誘導の仕方も上手だ。
だから話をする方も気持ち良く喋れて、話題で詰まることがない。そして、話をしてほしくはないことや明確にしたくないことには上手くかわしている。
これは冒険者にとっての巨大迷宮だ。どこからでも誰でも入れる迷宮なのに、奥底にある真の宝には決してたどり着けない。いや、たどり着かせないための迷路の番人なのかもしれない。
ふと、彼を見てそんなことを思ってしまった。
……恐らく昨日読んだライトなノベルの影響だろう。
そもそも私はそういう人を分析出来るほど賢くはないし、今日転校してばかりで頑張っている彼に対してそれっぽい考察をしている私はとても痛い。
心の中で彼に謝っていると、あーちゃんが話しかけてきた。
「ね、七宮君めっちゃ可愛いよね! 全然男子に見えないしね。最初は男子だけど女子の制服着ててびっくりしちゃったけど、似合いすぎてて全然ありだよね。やっぱ、今どきはそういうのも全然OKなのかな」
確かにもう少なくともうちのクラスでは、七宮君のキャラクターもあって受け入れているようだ。
「ただ、あんまりアイドルとかは興味ない感じだったから、それは残念だったな。ま、しょうがいないよね」
そして、あーちゃんもブレていなかった。
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