第17話 会議の始まり

「あっ!グレイさーん!」

「騒がしいぞ。」


笑顔で飛びついてきたジャーさんの頭をグレイさんと呼ばれた男が押さえ、抱き着く手前で止めた。

グレイさん・・・この方がグレイソン・ヤングか。

背が高い赤い髪と切れ長な目、髪に合わせて赤いジャケットを羽織り、右目にはモノクルだっけ?

名前は定かではないが、片目だけの眼鏡をかけている。

こんな眼鏡をリアルでかけている奴なんて初めて見た。

あの手紙の書き方から、年はそれなりに重ねた人かと思ったが、かなり若い人だな。

俺と同い年くらいか?


「貴様がレント・マチダだな。」

「初めましてグレイソンさん。」

「グレイで構わん。私も貴様のことはレントと呼ばせてもらう。」


圧がすごいな。

「貴様」と言うことに対し、全く違和感も嫌悪感も抱かせないオーラを醸し出すグレイさん・・・かっけぇっす。


「ジャーたちの雰囲気を見る限り、こいつらにとってプラスとなる知識を渡してくれたのだな。」

「まあ、他人の知識の受け売りですが。」

「なるほど。召喚者に合うのは久しぶりだが、相変わらず俺らが作る程度のものは大半知っているのだな。」


グレイさんが国家魔術師になってから、どのくらいの年月が経っているかは知らないが、何人かの召喚者に会っているのだろう。

紹介してくれないかな・・・やはり、今後の活動のためにも、一度召喚者に会いたいな。


「迎えに来たということは、もう会議の時間ですか?」

「腕に抱きつくな。会議の時間が近づいたから迎えに来た。」


ジャーさんはグレイさんに対して、腕に抱きついている。

それを軽くあしらうとは。

グレイさんは見た目通り堅物な男か。

確かに、こんな威厳ある男が腕に抱きつかれたくらいで鼻の下を伸ばされても、イメージと違ってがっかりするけど。


”馬のいらない荷馬車”を開発していた先輩から、「私は賛成ですよ。応援してます。」と背中を押された。

あれ・・・先輩は参加しないのか。

1票確保したと思ってたのに残念だ。

グレイさんに「行くぞ」と言われ、会議室に案内される。

横並びで歩くのもおかしいと思い、グレイさんから2・3歩離れて歩く。

すると、ジャーさんが小声で俺に話しかけてきた。


「レント君さーグレイさんのことどう思う?威圧感のある人でしょ。」

「そりゃー四豪家のヤング家ですから。そんなグレイさんに抱きつくジャーさんもすごいですよ。」

「かれこれ3年間グレイさんの部下やってるからねー。でもね、意外かもしれないけど、グレイさんは堅物に見えていろんな女性と毎日のように遊んでるんだよー。私が多少抱きついたぐらいではなんとも思わないの。」

「聞こえてるぞ・・・ジャー。」


グレイさんが振り返り、ジャーさんをにらみつけた。

ジャーさんは笑いながら頭を掻き、すいませーんと感情のこもっていない謝罪をした。

女からしたら、国家魔術師で、ヤング家で最高傑作なんて言われてたら、お近づきになりたいか。

それを、あっさり跳ね返しそうな堅い雰囲気なのに、ほいほい受け入れ、抱きまくってると。

ジャーさんに遊んでるって言われてるからにはグレイさんからもぐいぐい行ってそうだな。

俺の中でのグレイさんのイメージが壊れたところで、今日の会議が行われる部屋に着いた。

そこにはすでに1国家魔術師が座っており、俺たちが入ってくると、おしゃべりをやめ、厳格な表情になり俺たちを見た。

そこに、ジャーさんとグレイさんを加えて15人。

この場にいる半数を納得させれば良いのか。

一人誕生日席になって座っている人がいる。

かなり恰幅のいい、あごにたっぷりと脂肪がついてる顎タプタプおじいちゃんだ。

なんとなく察するに、この場で最も偉い人か。

ジャーさんに座る位置を指示され

グレイさんが席に着き、全体を見渡した。


「すでに全員が揃っているようだな。レント・マチダからの提案書にあるリストウォレットへのカメラ搭載に関しての会議を始める。今、提案書の複写を配る。」


特に準備してくれとかなく、唐突に会議が始まった。

提案書の複写というから、コピー機能でもあるのかと思ったが、手書きで一枚ずつ書かれていた。

この世界で本が出回らないし、やはりプリンター的なものはないのか。


「我々はすでに提案書に目を通している。内容を再度話す必要性はない。我々が提案書を呼んで疑問に思ったところを質問していく。すまんな……こちらも時間を多く取れるわけではないんだ。」

「なんとなくお忙しいのは察しております。質問をいただければ真摯にお答えいたします。」


会議が始めり、言葉も自然と引き締まる。

さっきの先輩も目の下にクマを作ってたし、やっぱり忙しいんだな。

わざわざ俺のために時間を作っていただきありがとうございます。


「では、私から……。」


国家魔術師たちの質問が始まった。

された質問は大まかに分けることができた。

まずは俺が召喚者であること前提の質問だ。

元の世界でカメラはどのように使われていたか、カメラは何についていたのかとか、俺らの世界でのカメラの重要度を聞く質問が多く投げかけられた。

こういう系の質問は答えやすい。

俺の元の生活をそのまま話せばいい。

写真を友達と共有していたとか、日常の当たり前を話せばいい。

だが、問題はもう一つの質問の部類だ。


「私からもいいか?カメラをリストウォレットに付けると、元のカメラが売れなくなるのではないか?」


こういう質問が厄介だ。

この質問はカメラが売れなくなったら国家魔術協会としての収益が減るから出てくるものだ。

そう・・・もう一つの部類はこの質問のような、こちらの世界の都合から見た質問だ。

まだこの世界で1か月半くらいしか生活していない俺にとって、かなり厳しい質問だ。

こういう時は、さっき先輩との話で効力を発揮した”質問返し”をしよう。

相手の返答に合わせそれっぽく話す。


「リストウォレットって、どうして4個セットで売っているんですか?」

「それは、3か月程度が寿命だからだ。」

「では、そんなものにカメラを付けたらどうなる感じですか?」

「そこも気になっていた。もっと寿命が短くなる可能性がある。」

「"住み分け"です。私たちの世界でビデオカメラが消えることはありませんでした。カメラの性能をあえて落として、ビデオカメラのほうが優れている状態を作っておけば良いと思います。」

「確かに。性能を落とせば、魔術数も減らせるし、寿命への影響も減らせられるかもな。」

「それに私たちはカメラそのものの性能なんて求めていませんよ。これを見てください。」


俺はほぼハンナさんが集めた街の人のインタビュー映像を見せた。

どういう時にカメラが必要なのか。

特別な時だけでなく、日常において意外と使いたい場があることをこの映像で伝えた。

自分の意図がちゃんと伝わっている分からないが、真面目に座ってた参加者たちが立ち上がり、映像を見にわらわら集まってきてるから成功だろう。

ひと通り映像を見終わると、席に戻っていき質疑応答が再開された。


「ついでにもう一つ質問なんだが。リストウォレットは手首に付けるものだ。すごく撮影しにくいと思うが、君たちの世界ではどのように対応していた?」

「撮影用の器具が多く販売されました。それもありますが、あなた方が作ったカメラにも目標補足ターゲットみたいな魔術がかけられているそうじゃないですか。そういうので軽く対応するのでいいと思いますよ。先ほども言いましたが、私が求めるのはカメラの性能ではなく、カメラが使いやすい環境です。」


たまたまルカと話した内容が使える流れがきて、意気揚々と話してしまった。

・・・あれ?さっきまでそれなりに盛り上がっていた雰囲気が凍り付いた気がする。

なんだ?何か間違えたか?

すると、グレイさんが立ち上がり、俺をにらみつけた。


「レント・・・今から行うのは質疑応答ではない。尋問だ。」

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