第15話 迎え
次の日の朝、国家魔術師が迎えに来た。
いつ来るかわからないから、かなり早い時間にハンナさんたたき起こしてもらうようにしていて良かった。
ルカはまだ寝ている。
ハンナさんに選んでもらった緑のジャケットを着て、気合を入れて家を出た。
「どうもー。君がレント・マチダ君だね。レント君でいいかな!そちらの女性がハンナちゃんね!」
「初めまして。ハンナ・ウェンライトと申します。まさか、お手紙の送り主のヤング様より有名な方が来るとは。」
「おっ!私を知ってくれているのね!まあ、とりあえず馬車に乗って。」
ずいぶんとフレンドリーな人だ。
それにしても、久しぶりに見たなドワーフの人。
オレンジ色の長髪をツインテールに結んでおり、褐色の肌から元気な印象を与えている。
ドワーフだから背が低いが腕や足はかなり筋肉質だ。
女性だが腕相撲したら俺が瞬殺されそう。
そんなヤング家より有名な
「申し遅れたね、レント君。私はジャー・シャイ。グレイソン・ヤング・・・グレイさんの直属の部下だよ。」
「シャイ様は
名前の通り炭鉱業やその鉱物を使った鍛冶屋を生業として生活をしていたが、この国にリストウォレットが生まれた原因であるように、この国の鉱脈は枯れている。
それに戦争もしていない以上、鍛冶屋の仕事も減る。
鍛冶屋の技術を活かし調理器具を売るものや、力持ちを活かした建築業を営む者が出てきたが、多くの
そんな中、ジャーさんが
国が
努力をすれば、ジャーさんのようになれるってか。
ジャーさんが特別でお前らは普通だと・・・。
「いやー私、初めて提案書を提出してくる人なんて見たよ。私が国家魔術師になったのはリストウォレットができた後だったからね。」
「リストウォレットも提案書からできたんですか?」
「そうだよー。レント君と同じ召喚者が出したんだよ。」
「・・・俺が召喚者だって知っているんですか?」
「そりゃーマチダなんて家名珍しいし、提案書を書いてくるのなんて召喚者くらいだから。」
てっきり"国家"魔術協会というくらいだから、王様から事情を聴いたのかと思ったが違うらしい。
王様から話が通っているなら少し楽だと思ったのに。
本当に、甘い汁を吸わせてくれない国王だ。
「それにグレイさんも言ってたよ。本当の目的はなんだって。」
「目的も何も提案書に書いてある通りですよ。」
「いやいやーその先だよ。召喚者である以上、カメラをつけるだけじゃないでしょ。」
「一応、他の目的はありますよ。ですが今回の提案書の査定とは関係ないですよね。」
「もちろん!私たちはあくまでリストウォレットにカメラつけるのっていいね!って思ってるだけだから。」
関係無いなら、なんで聞いてきたんだよ。
雑談のつもりなら、そんな腹の探り合いみたいな話し方しないでほしい。
なんだかんだ、国家魔術師という狭き門を通り抜けた人たちだ。
俺なんかより先のことを考えていそうで怖いな。
「とりあえず、今日は提案書の内容に準じて話してもらって、そこから会議に参加している人たちからの質問に答えてもらう感じ。」
「結構な人数が参加するんですか?」
「15人くらいかなー。グランに残っている国家魔術師たちの半分くらい参加するはず。」
「ちなみにどうなったら採用になる感じですか?」
「多数決だよ。」
シンプルに多数決か。
7・8人納得させれればカメラがリストウォレットに搭載される。
「現状だと、国家魔術師たちはどの程度、この案を受け入れている感じですか?」
「内緒ー。」
ウィンクしながらシーっと指を立てた。
ジャーさん、表情の動きが分かりやすくて、かなりかわいいけど、あざとさも垣間見えて腹立つ。
「知らない」ではなく「内緒」と答えた以上、事前にある程度会議をして、国家魔術師たちが個人的に軽い結論は出しているだろう。
今回の会議では、賛成側の人を今以上に乗り気にさせ、反対側の人を賛成側に寄せればいいのか。
馬車の中ではジャーさんがずっと何かしら話していた。
正直、馬車はしんどいから、それを忘れさせてくれてありがたかった。
馬車には何回も乗ったが、慣れることができる気配が無い。
車輪は木製なので一切衝撃を吸収しないのに加え、グランにつくまでは道も舗装されていない。
三半規管が弱い人間は嘔吐不可避だろう。
馬車に揺られること2時間、無事国家魔術協会に着いた。
国家魔術協会の総本部は思いのほか質素な建物だ。
入口の門は守衛人もいて、建物自体は大きいが、外観は歴史の長い小学校といった感じだ。
ここで、優秀な魔術師たちが、日夜開発にいそしみ、国力を上げているわけか。
守衛人にジャーさんが事情を説明した。
「事前に連絡したとおりで、レント・マチダさんに、ハンナ・ウェンライトさんね。」
「確認いたしました。問題ありません。一つよろしいですか?」
「ん?どうしたん?」
「いえ、ジャー様にではなく。・・・ハンナ様、お目にかかれる日が来るとは思いませんでした。」
ハンナさんの前で、守衛人が膝をつき首を垂れた。
ハンナさんはあからさまに嫌な顔をして、目をそらした。
守衛人の白い制服の胸元には青い丸に剣が刺さっている刺繡が施されている。
この刺繡は自警団所属であることの証明だ。
青い丸の下に星が3個ついているが、これが階級を表しているのだろう。
その辺の細かいことは分からないが、星が3つ付く自警団の隊員が膝をつき敬意を表すほどハンナさんは位が高いということだ。
……いや、ハンナさんが自警団内で有効な位を持っているわけではないだろうから、ハンナさんという存在に対し敬意を示さなければならないということか。
前々から思ってたけど、この人本当にウェンライト本家の長女とかなのか?
ハンナさんが王城でメイドをやり始めた経緯とか1回、聞いたけど、一切教えてくれなかったからな。
話したくないことは無理に聞かないけど、ハンナさんが段々隠せないようになっている気がする。
いつか、俺が知るときも来るかもしれない。
「顔を上げてください。あなたたちが私に敬意を払う必要はありません。」
「まあまあ、ハンナちゃんが嫌がってるから。」
ジャーさんにたしなめられると、守衛人は立ち上がり、最後に一礼をして持ち場に戻っていった。
美人に男性が膝をつく面白いシーンが見られたということで、今回は納得しておこう。
ジャーさんに案内され、建物内に入った。
外観の雰囲気から想像もつかないくらい、きれいな廊下だった。
何で光っているか分からない物体によって、廊下は照らされている。
「外観と違って中はずいぶんときれいですね。」
「まあね。廊下とか部屋とかは私たちが開発した物の実験とかにも使うから勝手に整っていくのよ。ちなみに廊下の光も実験中のものね。」
「電球?いや蛍光灯か。」
「やっぱり、この程度のものは君が元居た国には当たり前にあるのね。ケイコウトウ……その名前そのまま採用しようかなー。」
国家魔術師は本当にすごいな。
王様が日本から人を呼び寄せて、国家の問題解決を促しているけど、国家魔術師だけで十分に対応できると思うんだけど。
「まだ少しだけ、時間があるし、ちょっと見てもらいたいものがあるんだよね。」
ジャーさんに広いくて天井の高い部屋に連れてこられた。
何かの実験室だろうか。
その部屋には一面に魔術陣が広がっており、部屋の中央には馬車の車部分だけが置かれている。
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