第3章 開発会議
第14話 国家魔術師からの手紙
「この封筒が届くのは直近の突風の次の日だろう。貴殿のリストウォレットへのカメラ搭載案、至って単純な考えだが、国民の生活が良い方向へ進むだろうと、我々は判断した。次の突風が吹き終わる時、荷馬車と使いの者を派遣する。それまでに、我々に最終判断を下させるための材料を準備してくれ。国家魔術協会所属、グレイソン・ヤング。」
かなり上から目線で偉そうな雰囲気が手紙から感じ取れる。
国家魔術師にも級数があるんだな。
「グレイソン・ヤング様。カンナビア王国の四豪家のひとつであるヤング家の史上最高傑作と言われている方です。有名人ですね。」
ウェンライト家に続き、2つ目の四豪家か。
ハンナさん曰く、ヤング家は過去の戦争で魔術を使った銃火器の開発や情報戦に大きく貢献し、ジェレイン大公国を倒し、カンナビア大公国を勝利に導いた名家らしい。
今の国家魔術協会の立ち上げを指揮したのもヤング家だ。
「・・・差出人のことは置いておいて。問題は準備期間だ。次の突風の後に荷馬車を派遣するってさ。」
「3日か4日程度しかありませんね。」
だから、この手紙にあるように、遠くに移動する時は最も突風が吹く可能性の低い、突風が吹いた翌日にすることが多い。
俺と店長がジェレインに行った時も、突風が吹いた日の次の日に出発した。
その次の日に帰ってきたが、その夜に突風が吹いた・・・つまり、大体の間隔はあるが確定じゃない。
長距離移動はそれなりのリスクを抱えることになる。
やはり、王都グランに引っ越したいな。
風なんかで死にたくない。
・・・そんなことはどうでもいい。
この短い準備期間で何をするかだ。
「ですが、既に私たちにはルカが居ます。わざわざ国家魔術師に頼る必要性もないのでは?」
「そうよ!もう私がいるのよ!」
「いや・・・物事が早く進むに越したことはない。カメラを国家魔術師にやってもらい、ルカさんと俺はキーボーツに専念する。」
それに国家魔術師とのコネクションは絶対に欲しい。
ましてや差出人はヤング家とやらなんだろ。
名家と知り合う事ができる大チャンスだから無駄にしたくない。
無駄にしないためにも何ができるだろうか。
正直返事なんて返って来ないと思ってたから、何も準備していない。
・・・そういえば手紙に「国民の生活が良い方向に進む″だろう″」って書いてあったな。
「単純だけど街の人の意見を集めよう。3日くらいでそれなりの数は集められるだろう。」
「聞くだけですから可能でしょう。」
さて、聞く内容は何にしようか。
「リストウォレットにカメラを付いたらどう思いますかー」なんてざっくり聞いたところで、何もいい意見なんて貰えないだろう。
「とりあえず、今のカメラの不満点を聞こう。そこで出た不満点を解消するためにリストウォレットにカメラを搭載するってこじつける。」
「そのくらいでいいですか?」
「あとはその場の雰囲気で話せば……ハンナさん、そういうの得意でしょ。そこにルカと俺で集めればそれなりの数になると思う。」
街の人の意見を集めて、話す内容を精査する。
国家魔術師側からはそれなりに好意的な手紙が届い返ってきたんだ。
絶対に認めさせないと。
――――――――――――――――――――――――――
国家魔術師が訪れるまで、集められるだけの街民の意見を集めた。
3日間だったが、3人で合わせて100人程度。
もちろん人と会う機会が少ないし、質問した全員がまともに答えてくれるわけではなかったから100人程度になってしまった。。
良く分からん奴がいきなり質問をして、カメラ回して良いか?って言ったら誰だって不審に思う。
俺が集められた、まともな意見は元からの顔見知りに聞いて15人くらいでルカは顔みしりがいるわけでもなく、あんな感じの性格だからか5人だけ。
つまり8割はハンナさんが集めたことになる。
俺・・・指示出し要因でしかないな。
キーボーツを本当に作ることができるのだろうか。
「意外と日常でも写真や動画を撮りたいと思っている人が多いのですね。この意見がほっこりして好きです。」
「子供が初めて歩いた時、カメラが遠くにあって撮れなかったってやつね。これ、俺が父親だったら地面に突っ伏して悔しがるな。」
「初めてを撮り逃すのは一生の後悔でしょうね。」
この世界は家族の中でカメラを使う機会が多かったから、家族がらみのほっこりエピソードが多かった。
街の人の意見でしっかり、「カメラがすぐ使えないことに後悔した」という意見をたくさん集められたのはでかい。
もちろん否定的な意見もある。
例えば、カメラが常時持ち歩かれる状態になると、勝手に撮られたりしたら怖いという意見だ。
ルカの件もあり、自分としては頭が痛い。
この意見もしっかり国家魔術師に報告しよう。
プラスな意見だけだと疑われるし、今後、開発してくれるようになったときに、俺らの世界では無かった何か対策が施されたカメラを考えてくれるかもしれない。
「とりあえず、必要な意見はビデオカセットに移せたな。……あれ?」
ビデオカメラの電源を入れ、撮影してみたが、ピントが合わなくなっている。
買ってから1か月しか経っていないのに壊れたのか。
「これピントが合わなくなったんだけど、原因分かるルカ?」
「さすがにすぐには分からないわ。時間をくれるなら原因を見つけてあげるわよ。」
「ちなみにマチダ様。そのビデオカメラは何時間回しましたか?」
「20時間くらいか?」
「馬鹿じゃないの!そんなに使ってたらおかしなところが出てきても普通よ!」
脆すぎるだろ、この世界のビデオカメラ。
確かに10000ゼニーくらいだから、安いとは思ったけど、どれだけ薄利多売なんだ。
切れない電球は作らないなんて次元じゃないぞ。
「一度かけた魔術が、何度も発動すると徐々に効力が弱まってくのよ。きっとこのカメラもかけられている魔術の何かが発動しなくなったのね。」
「そんな……充電しながらスマホ使い続けると、バッテリーがへたるみたいなことがあんのかよ。」
「私たちが知らない言葉使って、勝手に納得するのやめてくれる?それに使用可能時間は説明書に書いてあったでしょ。」
「マチダ様……とりあえず私が使っていたビデオカメラを差し上げますよ。」
説明書は読まないタイプなんだよ。
使い方は元の世界のビデオカメラとほぼ一緒だったし、20時間で壊れるなんて思ってなかった。
「もしかして、リストウォレットが4個セットで売られていたのも壊れやすいから?」
「あんたの世界の製品の寿命がどのくらいか分からないけど、3か月程度で一つ使い潰す感じね。」
リストウォレットもハンナさんに教えてもらって設定したから、説明書を読んでなかったな。
そんな壊れやすいリストウォレットに壊れやすいカメラ機能なんてつけて大丈夫かな。
いや……これも使える内容かもしれない。
集めた意見から話す内容を考え、インタビューをまとめたビデオカセットも準備した。
外は風が吹いている。
つまり明日の午前中には国家魔術師が迎えに来る。
「楽しみね!国家魔術協会に行くの。グランに行くのも久しぶりだし。」
「ルカさんはお留守番だぞ。」
「はぁ?なんでよ!!」
「いや、手紙の招待者のところに俺とハンナさんの名前しかないんだよ。」
「それもそうか。あっちは私のことなんて知らないもんね。」
「そうだ!この壊れたビデオカメラの原因を解明しておいてくれ。今、少し考えていることがあるんだ。」
「いいわよ。暇だし。」
今日カメラが壊れたこと、リストウォレットが壊れやすいことを聞いて、思いついたことがある。
もし、ルカさんがビデオカメラの故障原因を解明できる実力があるのなら・・・俺たちは王都グランに引っ越すことができるかもしれない。
今回のようにグランに呼ばれて、2時間くらいかけて行くのも面倒くさいし、突風のこともあって長距離移動は危険だ。
今後のことを考えると絶対にグランに住んでいたほうがいいが、今はお金が足りないから住むところを買うなんて不可能だ。
まあ、その引っ越し計画を実行できるかどうかも、今回の国家魔術師たちがリストウォレットにカメラを乗せることを納得してくれて、俺らが国家魔術師とコネクションを持つことができたらの話だがな。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「まだ寝ないのかルカさん。」
「別にあんた達と違って明日の朝早いわけじゃないもの。それよりあんたっていつも酒飲んでるわよね。」
「酒はうまいからな。飲むか?」
「ええ、注ぎなさいよ。」
飲める人かルカさん。
いつも一人で夜な夜な酒を飲んでたから寂しかったんだよな。
でも、ルカさんに酒飲ませてもいいのかな。
「この国って酒は何歳から飲めるの?」
「飲食というものが何か理解したときからじゃない?別に決まりなんてないわよ。」
「それって危なくないのか?」
「まあ、幼いうちは親は飲ませないかもね。親自身が酒の危険性は理解しているもの。」
酒は飲んでも飲まれるな。
酒が飲めるようになったら、すぐ教わる重要事項だ。
それを子供たちに自然と教える環境になっているのは素晴らしい。
俺は一切守れてないけどもね。
そうだ、ルカさんとしれっと二人で話す機会にができたし、ちょっと話を聞こう。
国家魔術師から手紙が届いて、うやむやになってしまった、こいつらの喧嘩のことを。
「ルカさん、この間の・・・」
「ルカでいいわよ。さん付け気持ち悪いし。それにあんた、見た目は私と同じくらいだけど、中身はそれなりに年を食ってるんでしょ?」
「まあ28歳だな。」
「ふーん・・・10個上か。」
ルカはにやにやしながら頷いた。
その反応はなんだよ。
年齢の割にしょうもないやつだなってことか?
「ルカ・・・こないだの2人の喧嘩のことなんだけど。なんであんなにもめてたんだ?」
「・・・別に大したことじゃないわよ。それで、あんたはどこまで聞こえていたのよ?」
「まとめて言うのなら、お互いができることをしなかった的な話かな。」
「ほぼ全部聞こえてるじゃない。それ以上でもそれ以下でもないわ。」
「じゃあ、なんでやらなかったんだ?あの子の怪我治すくらい別にいいだろ。」
「・・・嫌だったから。」
誘拐されかけてた子供の怪我を治すことより、治癒魔術を使うことの不快感が勝っているのか。
そんなに親の後を追うのが嫌なんだな。
「俺から聞いた上でこんな事言うのおかしいけど、それ以上は話したくないよな。」
「・・・うん。」
まぁ出会って1週間も経ってないし、逆の立場だったら俺も話したくない。
もう少し時間がたったらもう一度聞いてみよう。
せっかく仲間になったんだし、俺のできる範囲でこいつらのわだかまりも解いてやりたい。
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