第11話 約束事がそんなに大事か?
「ただいま帰りました。」
「お帰りなさいませ・・・マチダ様?なんですかその猫?」
「久しぶりねハンナ!」
「マチダ様。家はペット禁止です。捨ててきなさい。」
「いやお母さん。この猫は悪さなんてしないよ。うちで飼っていいでしょ。」
「ふん!」
ルカさんに頭どつかれた。
すみません。
悪ふざけが過ぎました。
「はぁ。何をしに来たのですかルカ?」
「あんたこそ!こんなところでこんな男に仕えて何してるのよ。」
「国王から直接の命令ですよ。」
「そう・・・本当にそれだけ?」
「はい?それだけとはどういうことですか?」
ルカさんもスパッと聞いてくれませんか?
少なくともザ・女の子みたいな約束ごとの確認をするだけなんだから。
「いや・・・だから・・・そこの男と・・・。」
「あぁ。なるほど。」
「そうよ。教えなさいよ。」
「約束事その3。先にお付き合いする人のできた方が嬉しそうに報告すること。まぁあなたにとっては約束事というより勝負事みたいなものですよね。」
約束事その3って。
加えて嬉しそうに報告することと来ましたか。
可愛らしかった女の子時代のハンナさんを見てみたい。
「そうですね。お付き合いはしていません。ですがあの夜は大変艶やかな夜でした。」
「「はい?」」
ハンナさんが頬を赤らめうっとりと答える。
何言ってるんだ?
ふざけないでいただきたい。
この世界に来て1ヶ月俺は女の裸なんて見てない。
ハンナさんと1つ屋根の下。
風呂や着替えに鉢合わせることすら無いよう細心の注意を払い懸命に紳士として全力で・・・。
いや待て。
可能性があるとしたら2回。
俺の初出勤祝いと店長の誕生日会。
店長に死ぬほど飲まされてベロベロになった。
そこにはハンナさんも参加していて、泥酔した俺は家に帰れなかったので、店長の家に泊めてもらった。
その時はもちろんハンナさんも泊まってから帰った。
もちろん記憶はない。
その時に俺は店長の家なのにも関わらず、ハンナさんをひん剥いた可能性がある。
くそ・・・抱いてしまった以上記憶を残しといてくれませんか。
絶対いい思い出になったじゃんかよ!
「覚えてらっしゃらないですか。」
「身に覚えがありません。」
「ひどい!私にあんなことしといて!」
どんな事をしたんですか俺は。
まさかハンナさんに笑顔より先に半泣きの顔を向けられるとは。
ずっと黙ってるルカさんも怖いんですけど。
ほれみろ拳を握りしめ俺の肋骨を粉砕しようとしている。
握りしめた拳には案の定魔法陣が見える。
この世界は簡単に人に魔術振るっても良いのかよ。
「このクソ男!」
「やめていただけませんか。」
俺の腹に入れ意識を飛ばしたパンチをあっさり片手で止めた。
さすがウェンライト家。
女性とはいえ、昔は普通に訓練とか受けていたのだろうか。
「ふん!もう帰る。」
「どうやって帰るのですか?荷馬車の手配とかしているのですか?」
「俺、ルカさんの母親に2・3日後に送り返すって言っちゃってるよ。」
「うるさい!」
「それにあなたは最初から帰るつもりなんてないでしょう?」
「・・・それは。」
「素直に言えばよろしいではないですか。あの家に帰りたくないと。面白そうだから手伝わせてくれと。」
「私そんなこと一言も言ってないじゃない!何を根拠に・・・。」
「あなたが何か行動を起こす理由にまだ私は必要ですか?」
確かにそうだ。
ルカさんに会ってから1日しか経ってない。
ただその1日しか見てない中でもルカさんが行動した理由は全てハンナさんが絡んでる。
そんなに子供の頃にした、たわいもない約束が大事か?
全く分からない感覚だ。
「・・・私をそうさせたのはハンナじゃない。」
「そうですね。全て私が悪いです。」
ハンナさんが自傷的に笑った。
今のルカの現状を作ったのはハンナさんと母親さんも言っていたな。
魔術学校を辞める理由だけと思ってたけど、ルカさんの人格や行動原理まで変えてしまったのか。
……空気が重い。
さっきまではヤッたヤラないの話だったじゃん。
その空気を変えようとしたのかケロッとした顔でハンナさんが話し始めた。
「そうですねー。あなたにとっては約束事でもあり勝負事でもあるんですよね?」
「何よ・・・。」
「さっきも言いましたよね付き合ってはいないと。体を許しただけ。つまり、まだあなたと交わした約束事は果たされていませんよ。」
「だからなんだって言うのよ。」
「あなたがここに住めば、それ以上、私たちの関係が発展することがあると思いますか?」
「確かに。それもそうね!」
「これでよろしいですか?マチダ様。」
「えっ・・・よろしいですかって。まぁもちろん。ようこそルカさん。」
「おじゃましまーす。」
「マチダ様。何をまだ玄関先に突っ立ているのですか?」
「えっ。あぁ。」
意外とあっさりルカさんが俺たちに協力してくれることになった。
完全に置いてきぼりなんですけど。
さっきまで空気最悪だったじゃないか。
……まぁとりあえず魔術師というカードを手に入れた。
これからは行動できることが増える。
「あっ!そうだ!」
「なんだよ?」
「狼狩り《ウルフハント》!」
なんだ?
俺になにか魔術をかけたのか。
特に体に変化はない。
「私がここの生活に慣れるまでエッチなことはさせないわよ!」
「・・・言われなくてもしねーよ。」
――――――――――――――――――――――――
「まだ眠らないのですか?」
「眠れると思うか?」
今日の夜は突風が吹き荒れている。
窓に叩きつけられる風による轟音のせいで寝たくても寝れない。
というか、今日クーエンスから帰ってくるの危なかったな。
いつもより突風の間隔も短いし……改めて、この突風の危険性を感じた。
「ルカさんはもう眠ったの?」
「ええ。それはそれはぐっすりと。」
「この風の中ですぐ眠れるなんて神経腐ってるのかよ。」
「さすがに疲れたんだと思いますよ。昨日と今日とギャーギャー騒いだことでしょうから。」
さすが魔術学校の元首席。
大物だな。
「お酒持ってきました。飲まれますか?」
「いや、しばらく酒はいいかな。」
「さっきの話を気にしているのですか?」
当たり前だ。
ひとつ屋根の下で暮らしているとはいえ、恋仲でもなく家族でもない銀髪美人エルフを知らないうちに抱いて、あまつさえそれを覚えていないなんてもったいな……人間として最低だ。
「もちろん嘘ですよ。」
「えっ・・・嘘なの?」
「マチダ様は酔っ払うと話したいことベラベラ話して、パタリと寝てしまうではないですか。」
確かに酔っ払ったとしても、朝起きたら知らない女が寝てたなんてことないな。
「ルカは私にならなんでも突っかかってきますし、私の言うことであればそれなりに聞きます。多少嘘ついても大丈夫ですよ。」
「だとしてもすんなりと話をまとめすぎだよ。」
「ルカのことを私がよく理解しているだけですよ。でもお酒は程々にした方がよろしいですよ。」
「確かに。」
「・・・ですがマチダ様。私はいつも待っていましたよ。」
「はい?」
そう言うとハンナさんは俺の手に自分の手を合わせてきた。
そして、片足だけテーブルに乗せ、俺に近づいてきて、耳元に口を近づけた。
「もう一度言いますねレント……。私はいつも待っていましたよ。」
レントですと!
それはよろしいということですか?
いや待て・・・俺は一体なんのためにこの1ヶ月耐えたと思っている。
でもま・・・そちらから来ていただけるのなら別にいいですよね。
そんなこと考えていると俺の息子も反応を
「だァァァ!!!」
急に体に電流が駆け巡った。
ハンナさんが俺に何かしたのか。
いや、ルカさんか。
俺に何か魔術をかけたような素振りがあったしな。
「相変わらずルカのその魔術の効果はすごいですね。」
「・・・どういうことだ。」
「狼狩り《ウルフハント》。女に情欲し息子を反応させたことをトリガーに全身に電撃を流す魔術です。ルカのオリジナルですよ。」
「あんのどら猫。なんてもん開発してんだ。」
「その魔術で幼き日の私に好意を抱いた男の子たちはもれなく諦めていきました。ハンナに近づくと雷様がお怒りになるーと言って。」
なるほど、それで狼狩り《ウルフハント》か。
男は狼。
どの世界も似たようなもんだな。
そんなもんで守られていたら約束事も長引くわけだ。
ただあの猫、幼き男の子たちの純粋で真っ直ぐな下心を踏みにじりやがって。
「2・3日で消えるはずですから、その間は自分で慰める行為は自重されるとよろしいかと。それと毎朝覚悟して起きてください。自覚した時に発動しますから。」
「要らん気遣いどうも。それにしても使い方は狂っているが魔術ってすごいな。あいつ、どんな脳みそしてるんだろ。」
「ルカが絵を描くのが好きなのは知っていますか?」
「絵を描いているところを盗撮してて、それがバレたのが出会いだから知ってるよ。」
「・・・ルカは幼いころから絵を描き続けています。特に風景を描くのが好きでした。草木を揺らす風、水の流れ、きれいな山並みなど、絵を描くために自然を多く見てきています。」
「それが4元素魔法を応用して行使する魔術のイメージに活かされてるかもしれないのか。」
「おそらくは・・・国家魔術師は芸術にも精通している人が多いらしいですし。」
俺たちは魔術の話になると雑なことしか言えなくなる。
魔術・・・もうちょっとどうにかならないのかな。
国の発展を魔術に頼ってる以上、もう少し万人が使えるようにしないとダメだろう。
だいたい、4元素魔法自体はごく普通の自然現象なんだから、根本を理解できれば、誰でも使えるようになりそうなのに。
王様、次の召喚者はこの世の理を調べる職業である研究者を呼ぶといいですよ。
まあ召喚者は選べないらしいけどね。
「私も寝れるかわかりませんが部屋に戻らせていただきます。」
「あぁ。おやすみ。」
「・・・マチダ様。明日以降は精力的に活動をしていくのですよね?」
「そうだね。運良くルカさんを加えることができたし、やれることの幅が広がったから。」
「私がなんの役に立つか分かりませんがなんなりとお仕事を申し付け下さい。」
「あぁ。よろしく頼むよ。」
いつものようにハンナさんは綺麗な一礼をして部屋に戻っていった。
昨日と今日でだいぶ進展した。
ほぼ運のみだけど。
元の世界の知識があるだけで、決して頭が切れる訳でもない、何か特別な技能を持つわけでもない俺が国を変えようとしているんだ。
この運は逃すわけにはいかない。
それに元の世界での失敗は繰り返すわけにはいかない。
2人とはいえ仲間が増えてきたんだ。
気づいたら溝が広がっていてバラバラになるなんてことはしたくない。
まあルカさんとハンナさんはすでに広がっている気がするけど。
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