第12話 目標共有
次の日の朝、体に流れる電流とともに大声を上げながら目を覚ました。
しんどい・・・。
これが2、3日続くのかよ。
部屋の前にいつも通り着替えが置いてあった。
毎朝ハンナさんが置いてくれている。
着替えるたびに思うがこの体は筋肉質だ。
基本インドアだった俺からしたら一生出会えない肉体美だっただろう。
ゴリマッチョというわけではないが良い肉質。
男より女が好きな体だろう。
筋トレなんてしなかった俺がこの体を保つために毎晩筋トレをするほどだ。
一つ文句を言うなら背が低めで幼く見えることだけど。
着替え中、ふと股間に目を落とした。
魔術がかかっていても何か目に見える変化があるわけではない。
・・・待てよ。
魔術はイメージと知識が必要だったよな。
つまりルカさんはハンナさんが男とくっつかないよう、男のいきり立つソレを想像しながら魔術を編んだというわけだ。
そう考えると大変興奮するではな・・・
「だあああああああ!!」
「朝から裸で何をされているのですか。……ナニを。」
「違う!!」
「朝ごはんの準備ができておりますよ。下に降りてきてください。」
服を着て下に降りるとルカがすでに起きていた。
昨日から3人になったんだな。
飯時もハンナさんと二人だとそこまで話が弾むわけでもない。
基本俺に用事があるか俺が何か変なことしないとハンナさんは話しかけてくれないし、俺が話しかけたところで一言二言話して終わりだ。
雑談がなかった日常から、ルカさんが入ったことで明るい食事になった。
まぁ・・・ルカさんとハンナさんの小言の言い合いだけど。
朝ごはんを終え、俺たちは初めての作戦会議を開いた。
「さて初めての会議をはじめるぞ!!」
「「……よー」」
俺が意気揚々と叫んだのに対し2人は気の抜けた返事をした。
「私から一言。もう一回あんたがやりたいこと教えなさいよ。」
「絵、歌や詩、寸劇や格闘技、身の回りのニュース、国民が面白いと思っていることや考えを好きに共有でき、それをリストウォレットいつでも見れるようにする。」
「テレビの上位互換みたいね。」
「対象は子供たちということは変わらないのですか?今の話の中に子供という言葉がありませんでしたけど。」
「・・・もちろん子供達が楽しめることが前提だ。」
危ない。
真の目的を話してしまうところだった。
ハンナさんが元国王直下のメイドである以上、今でも連絡を取り合っているかもしれない。
「この国に対する疑問を全体に主張できる世の中にする」という目的は伏せとかないと。
「まず俺たちはリストウォレットにカメラ機能を付ける。」
「なんか地味ね。」
「もっとカメラを日常に溶け込ませるんだよ。本当は国家魔術師に依頼してたんだけど返事も来ないから俺たちでやるしかない。」
「あんな奴らよりも私が適任よ!」
荷馬車で話したときでかなり食いついていたけど、想像していた以上にやる気があってありがたい。
根底にある自分の絵を世の中に広めたいという欲が突き動かしているのかもしれないけど。
「マチダ様。つまらぬことかもしれませんが投稿場所とか、みんなで動画が見れる場所とか、いちいち長いですしダサいかと。」
「そうだな。名前を付けるか。そうだ!!キーボーツ!!。この国に可能性の鍵を投ずるものだ!!」
「どちらにせよダサいわね」
「屋根を指さして、何かあるのですか?痛々しいのでやめたほうが良いかと思います。」
こいつらにはおそらくずっとなめられたままなのだろう。
まあいい。
目標の共有が終わった。
キーボーツ・・・風が止むまでにこの国に浸透させてやる。
「さて、目標の共有ができたところでルカさん。ここに来るときに荷物を持ってきたけど、何持ってきたの?」
「ちょっと待ってなさい!!」
どたどたと階段を上がっていき、カバンを持って降りてきた。
カバンの中から分厚い本と木の板のようなものを取り出した。
本には魔術大典と書いてある。
この国が作った魔術のすべてが書いてある本だろうか。
タイトルの右端に小さく36と書いてある。
36回改訂したということか。
広辞苑みたいだな。
「あんたもこの本読んどきなさいよ!あんたに上から指示を出されるのよね?何も知らないやつにとやかく言われたくないから!」
「ありがとう。……読んだところで理解できるか分からないけど。」
こいつに指示を出すことなんかできるのだろうか。
いや、作りたいもののイメージは俺しか持っていないんだ。
魔術を理解しとかないとルカさんに正しいものを作らせることができない。
それに、ルカさんの実力も気になるな。
「ちなみにモノを凍らせることってできる?」
「さあ?やったことないけど本に書いてあるんじゃない?」
ルカさんはやる気なさそうに本をぺらぺらとめくり始めた。
魔術大典と銘打っているものだから、細かく書いてあるとは思うが、魔術はイメージが重要と言っていたし、店長もオリジナルとはいえ、3年もかかったんだ。
そんな簡単にできるのか?
「見つけたー。ほいほい・・・ふーん・・・
魔術を唱え指先で軽くテーブルをつつくと、瞬く間に机が凍り付いた。
まじか・・・店長の3年間はこの女のやる気のない数10秒でした。
詠唱が違ったということは本当に店長はオリジナルで作ったのか。
それはそれで店長すごいな。
ルカさんが再度、テーブルをつつくと氷が割れ、元の机に戻った。
「これが国家魔術師レベル……。」
「マチダ様に忠告しておきます。ルカを基準に国家魔術師を判断しないほうがよろしいかと思います。」
「本物はもっとすごいということか。」
「その逆です。ルカは魔術学校に入学して半年で主席になった怪物です。将来はこの国のトップ魔術師になるだろうと期待されていたほどですよ。」
「ふん!珍しくほめてくれるじゃない!」
主席は主席でも、魔術学校の歴史に残るレベルの成績だったのか。
想像以上にすごいやつを仲間にできたのかもしれない。
「それで、キーボーツを作るうえで何か開発環境は必要?」
「いや特に。てかあんた一度見てるでしょ?あんたのビデオカメラ貸しなさいよ。」
「なんか見たことあるっけ?」
「
これはボコられて、カメラを取り上げた時にもやってたやつだ。
部屋一面にカラフルな魔術陣が広がった。
ルカさんがその魔術陣に触れると、そこからさらに魔術陣が出てくる。
カメラひとつに何個の術がかけられてるんだ?
「相変わらず適当に付け足した雑な魔術ね。」
「付け足し?」
「新しい機能を達成する魔術をどんどん上書きしていくのよ。そい!」
ルカが俺の前にひとつの魔術陣を投げてきた。
よく見ると俺の目でも理解できることが少し書いてある。
最終更新日:イレイト紀1321年5月13日。
この国の年と月日が記載されてる。
つい3ヶ月前だ。
「1番新しい更新内容ね。使用魔術は
「はぁ・・・あぁ手ぶれ補正か。」
「ちなみにあんたのカメラを撃ち抜くために私も使ったわ!」
そうでございますか。
やはりカメラに求める機能はどの世界も一緒か。
そのうち笑顔検知とかやり始めそうだな。
だが、これは朗報だ。
意外と魔術の内容から何に使われているかもざっくり分かるもんだ。
俺が魔術を勉強する価値は十分あるかもしれない。
「とりあえず新しく何か開発環境は揃える必要ってないのか。」
「基本的に国家魔術協会が開発したものは全て
お金がそんなにないから買わなきゃならないものがないのはありがたい。
それにしても具体的な話ができるようになってワクワクする。
ハンナさんとルカさんも常にいがみ合ったりしてる訳でもないし、これからが楽しみだ。
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