幕間 ~精霊の掟~





「おー! さすがお姉、そんなでっかい蛇腹狼、狩人衆よりすげえぞ!」


 蛇腹狼というのはトカゲの一種だ。狼どころか蛇ですらない。茶色の鱗に覆われていて、狼のような精悍な目つきが特徴的な足長の大トカゲだ。本来はもっと山深いところに生息し、糸の原料になるカーフススという生物を好んで食べる。


 ヨーテス山脈南部の山沿いにあるグリットスは、糸の生産とわずかな農作物と狩りで生計を立てている小さな村だ。そのためたまに蛇腹狼が出没すると大騒ぎになる。


「蛇腹狼は食べられないわ。私には素早いうさぎを射抜く狩人衆の方がすごいと思うわ」


 お姉と呼ばれたのは、弟の少年と同年代の少女だった。淡いクリーム色の髪と大きな緑の瞳が特徴的な少女で、厚ぼったい生地の、袖口が広い外套を着ている。これはヨーテス民族特有の衣装だ。少女の服なので、ヨーテスの服によく施されている複雑な刺繍は見られない。


 その少女リリアンは今年で六歳になった。まだだいぶ幼い少女だが、どこか落ち着ききった世慣れた雰囲気がある。

 弟の方もアレーだ。こちらは姉と違い青の髪をしている。年相応の活発な雰囲気の少年で、大人たちが問題視していた大型の蛇腹狼を担いで帰った姉に、尊敬の眼差しを向けていた。


 弟はリリアンとは血の繋がらない家族だった。彼女の実の親は赤子のときに他界し、リリアンは狩人衆の夫婦に引き取られた。そのため弟と言っても、二人の生まれ年は一緒だった。


「そんなことないって! 親父が蛇腹狼は矢どころか槍も刺さらないって言ってたんだぜ。俺ももっと魔法、練習しなきゃだ」


 リリアンにとって、獲物は大きければ大きいほど狩りやすかった。クリーム色は淡い色合いで分かりにくいが、水のマナを宿す黄色の髪だ。

 リリアンは幼くして水の魔法が得意で、当たりさえすれば槍よりも威力の高い攻撃ができた。だから動きの鈍い蛇腹狼には少しの手間もかけずに勝てた。


 倒すことよりむしろ、担いで帰るほうが大変だった。

 蛇腹狼は食用には向かないが、しなやかで強靭な骨が弓の材料になる。鱗も肉も内蔵も使い道がある。

 山道で自分の体より大きなトカゲを運ぶ苦労を負えば、必要な存在だと思ってもらえる。

 リリアンはそんな打算の上で蛇腹狼を担いできたのだ。




 必要だと思われることは、リリアンにとって極めて重要なことだった。


 グリットス村の人口は八十人程度だ。小規模な村なので、リリアンと弟が産まれるまでアレーは一人もいなかった。だから今はまだ自分たちは期待をされている。

 しかしいつまでも自分の価値を示せなければ、いずれその期待は薄れていくだろう。リリアンはそれに恐怖していた。


 リリアンは遺児となった自分がどうして生きていられるのかを知っていた。


 この周辺にある五つの村には、精霊が定めたとされるいくつかの掟が存在する。その一つに、山林の恵みをもたらす精霊へ、各村から毎年子供の贄を捧げるというものがあった。

 リリアンは幼いながらにおかしな掟だと気が付いていた。物心ついてから四度、何も分かっていない幼子を連れて、村の大人が山に入って行くのを見た。信心深い村人はその掟に一切の疑問を持っていなかった。しかしリリアンはその掟に批判的だった。

 三年前の精霊祭で、義理の父が言ったのだ。


「可哀想にな。あの子もアレーだったら良かったのに。若頭も無念だろうな」


 若頭と呼ばれる男の息子はその日、精霊の姿を装った村の司祭に名を呼ばれた。司祭は精霊装の儀式を行うと、精霊の意志を聞くことができるのだという。そして若頭の子供は山林の精霊に捧げられるため、山へと消えた。


「アレーは捧げられないの?」

「ああそうだ。有能なアレーは村に必要だから、優しい精霊様はアレーをお選びにならんのだと」


 リリアンは義父の言葉から、贄は精霊の意志ではなく、村の都合で選ばれるのだという事実を感じた。

 だから義父の信じる掟というものに疑問を持った。


「山が崩れたり、魔獣がいっぱい出たりしなきゃあお前たちは大丈夫だ」


 そして幼い頭で、理由があれば自分も贄になるのだと漠然と思った。


 次の年、リリアンに懐いていた子の親が亡くなった。遺児となった子供は、その年の精霊祭で贄に選ばれた。

 それをなす術もなく見送ったリリアンは、アレーでなければ、親を亡くした子は真っ先に贄となるのだと知った。


 贄などと都会では考えられないような因習を持つが、このグリットスの村が特別異常というわけではない。こうした風習は大陸各地で散見される。大きな街や都市とは違い、人間よりも自然の力が強い僻地では、人の命よりも重いものは数知れないのだ。

 そうした村々や集落の中では、この周辺で行われている精霊への贄は残酷なほうではないだろう。


 けれどだからと言って、当然自分が贄になりたいとは思わない。だからリリアンは日頃から、大人たちが満足をするように振る舞っていた。

 まだ幼いリリアンが一人で生きていけるはずもなく、納得できない掟にも、ただ「仕方がない」とあきらめて過ごすしかなかった。


「お姉はさ、どうやって魔法を覚えたんだ?」


 小さな体で蛇腹狼を担ぎながら、リリアンは弟と一緒に両親の待つ家に向かっていた。弟は運ぶのを手伝ってはくれないが、姉の前を歩き、藪を踏みしめて通りやすいようにしてくれている。

 弟は本当にリリアンのように魔法が使いたいらしく、道中そんな質問をしてきた。

 しかしリリアンはその質問に首をかしげた。


「どうやってって? 一緒に司祭様のところに教わりに行ってるじゃない」

「うそだあ。司祭様がリリアンの魔法はおかしいって言ってたぞ」


 村の司祭はキーネの老人だ。魔法の使い方どころかマナを感じることすらできないが、むかし聞いた村にいたアレーの話を姉と弟に教えていたのだ。


「おかしいの? どうして?」

「魔法がすごいのに、ぐわーっていっぱいマナを集めないんだって」


 弟が聞いた話では、むかし村にいたアレーとリリアンとは何かが違うらしい。そのアレーは大きな魔法を使うとき、精一杯集中し、時間を使ってマナを集めていたのだという。

 しかしリリアンは、余裕を持ってマナを集めて瞬時に魔法を発動できた。

 他にアレーを知らないので自覚はしていなかった。しかし魔法においてリリアンは、この六歳のときすでに、並大抵のアレーでは到達できない領域にいたのだ。


 弟はそれから、弟の思う「ぐわーっていっぱい」のマナを集めて見せた。弟が前方に手をかざすと、石投の魔法によって生まれた小石が、ポーンと弧を描いて数歩手前に落ちる。


「ふふ。確かに私の魔法とは違うみたいね」


 リリアンがからかうと、少しむくれた弟が再びマナを集め始めた。幼い男の子のプライドがそうさせたのか、今度放った小石はまっすぐ山の木に飛んだ。小石は木の幹に跳ね、リリアンに向かって跳んできた。蛇腹狼を担いだままでは避けられなかったので、小石が肩に軽く当たった。

 痛みはなかったが、予想外の結果に弟が慌てた様子で謝った。


「ごめん、大丈夫か?」


 リリアンは謝罪を受け入れてから弟をたしなめた。


「ええ、問題ないわ。だけど魔法はとても危険だから、練習は広い場所でやるべきよ」

「分かった。俺、お姉に俺の魔法見てもらいたかったんだ。だから今度練習見てくれよな。司祭様の精霊術じゃお手本にはならないからさ」





 空が暗くなり始める前に二人は家に着いた。両親は狩人衆の一員で、村では農地を持つ四家族と司祭以外は山に家を持つ。製糸をする家は麓の近くで、狩人衆はその奥の山中に散り散りに住んでいた。リリアンの目論み通り、蛇腹狼の死体には義父も義母も喜んだ。明日にはリリアンが蛇腹狼を狩ったことが村中に知れ渡るだろう。

 義父は大鉈を持って蛇腹狼の解体をしに庭に向かった。

 夜になる前に蛇腹狼は骨と鱗と肉と内蔵に分けられた。


「大鉈一本ダメになったぞ」


 そう言っていたが義父の顔は明るかった。

 リリアンの家は農地持ちの家よりは貧しく、製糸業の家よりは実入りがいい。しかし狩人という危険の多い仕事をしている。蛇腹狼の素材で得る収入は安全で、数月分の稼ぎになるのだ。大鉈の一本くらいは安いものだった。


「次に町に行くのが待ち遠しいわ」


 義母は素材の中で一番金になる鱗に目を奪われながらそう言った。鱗は軽くて頑丈で、金属よりもマナが籠もりやすい。布の服に縫い付け呪詛の魔法をかけると、かなり値の張る防具になるのだ。ここで加工まではできないが、原材料だけでも高く売れる。しかも今回リリアンが狩った個体は大型なので、どれほどの値が付くか義母はぶつぶつつぶやいて皮算用を始めた。


 両親は乾きやすい臓腑だけツボに入れ、血抜きした肉は外に吊して干した。

 肉は乾かしたあとに砕くと痛みを和らげる薬になる。乾かすと大分量が目減りするので鱗ほど高くは売れないが、それでも貴重な収入だった。


 ほくほく顔の両親を見て、リリアンと弟は目を合わせて笑みを見せ合った。




 不安と疑問を抱きながらもリリアンの日常は平和だった。外の世界を知らない一家は、舞い込んだ小さな幸運に大きな幸せを見いだしていた。


 しかしその幸せは次の日に跡形もなく崩れ去った。


 村の掟には、贄の他にももう一つ、リリアンにはとても馬鹿げて見えるものがあった。

 村人は村人を殺してはならないという項だ。これを犯した者は家族にいたるまで迫害される。

 その掟自体にはもちろん反対はしない。リリアンたちはアレーだったが戦士ではない。人が人を殺すことは非日常だった。最近西の帝国が南の小国の王を殺したと噂になっていたが、それは遠い所の出来事だった。


 しかしリリアンからしてみると、贄の儀式はただの虐殺だ。村の司祭は大量殺人者だと思えていた。

 その司祭は長以上に村で敬われている。だから「村人は村人を殺してはならない」と教えられても、馬鹿馬鹿しいとしか思えなかった。


「お姉、俺、どうしたらいい? 助けてくれ!」


 家の庭先で蛇腹狼の骨を削っていたリリアンの元に、泣いてぐしゃぐしゃに顔を歪ませた弟が駆け寄ってきた。

 突然のことで、まずリリアンは弟がこれほど泣くのは珍しいと、のんきなことを考えた。


「どうしたのよ? そんなに泣いていたら何がなんだか分からないわ」


 リリアンはとにかくまずは弟を落ち着かせようとなだめた。大泣きをする弟の言葉は支離滅裂で、助けてくれと言われても何をしていいのかも分からない。

 しかし弟の話を理解するにつれ、リリアンの心には絶望がのしかかり、背筋が驚くほどに冷え切った。


 弟はその日司祭の家で魔法の練習をしていた。昨日成功した石投の感覚を忘れないうちにと思っていたのだろう。

 石投の魔法は順調で、司祭は大地の魔法の教本をめくり、次のページにある石斧という魔法を弟に教えた。

 石斧はただの石を飛ばす石投を、斧の形にして飛ばす魔法だ。それは比較的単純な魔法だった。石投を完璧に使えるようになった弟はただの一度で魔法を成功させた。しかし弟は自分の魔法が成功するとは思っていなかったらしい。そのためマナのイメージを誤り、石斧は予想をしていない方向へと飛んだ。

 なんという不運か、それがたまたま居合わせた司祭の父親の喉に突き刺さったのだ。

 司祭すら老人と呼ばれる歳なのに、その父親だ。九十を超える老父は弟の拙い魔法をかわすことができなかったのだろう。老父は即死したらしい。


 弟は事の重大さに驚愕し、走ってこの家まで逃げ出してきたのだ。


 話を聞いてまず感じたのは、どうすることもできないというジレンマだった。

 死はいかなる薬や魔法でも覆せないことなのだ。それは世界の普遍的な理だった。今さら老父は生き返らない。


 次に考えたのは、老父は長く生きたのだから充分だろうということだった。もともと老父は息子に引き継ぐまでは司祭の座についていた男だ。何十人もの子供を死に追いやったのに九十まで生きたのだ。だから充分どころか、死んで当然の人間だ。

 しかしその考えは、弟の罪から目を背けたい思いから出た言い訳でしかなかった。

 リリアンは解決策はなく、ただ受け入れるよりないことを悟った。


 仕方ないのことだった。


「そんなのどうすることもできないわ」


 リリアンが絞り出すような声でそう言うと、弟は泣き声をひそめて歯を食いしばった。拳を固く握りしめ、全身をガタガタと振るわせながら、一言だけ「そうだよな」とつぶやいた。




 弟が人を殺してしまったことは、その日の内に村中に知れ渡った。六の刻までは蛇腹狼の話で持ちきりだったグリットス村だったのに、八の刻にはもう誰もその話はしていなかった。

 義父と義母も昨日の明るい顔をしまい込み、ただ暗澹たる表情で沙汰を待った。

 九の刻と半ごろに司祭の息子が家を訪れた。


「爺様は長く生きた」


 息子の話の切り出しにリリアンは淡い希望を感じたが、それもすぐに消えた。


「だとしても掟は掟だ」


 息子は恨みのこもった目を弟に向けた。


「あんたらは全員、死ぬまで取引と協力が禁じられる。町や他の村に行くこともならねえ。

 そしてもちろん、精霊様の加護も与えられん」


 最後の一つにはどうでもいいと感じたが、最初の二つは絶望的だった。厳しい自然の中で生きて行くには、人間同士の助け合いが不可欠なのだ。

 狩りの獲物だけでは生きて行けない。今までは農地持ちの家と取引し、きびなどの作物と獲物を交換していた。しかしこれからはそれも禁じられる。

 町に行って金を作ることもできない。

 そもそも狩り自体、狩人衆で獲物を追い込んで行うことがほとんどなのだ。協力を禁じられれば、獲物を得ることすらままならない。

 家族にとって頼みの綱は、昨日蛇腹狼を単独で狩ったリリアンだけだろう。


 その日の夜、弟がリリアンに言った。


「お姉、俺、明日から狩りをする。連れてって色々教えてくれ」


 リリアンは弟の言葉に、弟はこれからどうなるのだろうかと思った。

 少なくとも、次の精霊祭で弟が指名を受けることは避けられないだろう。司祭の息子は「精霊様の加護も与えられん」と言っていたが、贄は加護ではないだろう。

 しかしそもそも、自分たちが来年の精霊祭まで生き残れる気がしない。

 肉から体に入るマナは活力の元となるが、そればかりだと毒になる。肉のマナの毒は穀物のマナによって中和される。リリアンはそう教えられていた。

 山中でこの一家が育てられる穀物はほんのわずかな芋だけだろう。それだけで家族四人が生活することはおそらく無理だ。


「ええ。厳しく教えるから覚悟しておいてね」


 いつものようにからかい口調で弟に言うと、かすかに弟の表情が明るくなった。

 しかし弟はすぐに暗い顔をして、大粒の涙をこぼし始めた。


「俺、これからどうなっちゃうんだろうな」


 リリアンはそんな弟のおでこに自分のおでこを当てて、後頭部に手を回して優しくなでてやった。リリアンにも弟の問いの答えは分からなかった。だから何も言わずにただただ弟が泣きやむのを待った。


 昨夜弟のした最後の問いには、次の日の朝答えが出た。


「今日の朝は狩りには出ねえで、庭の芋畑を大きくする。それから昼は家族全員で食うことにした」


 朝食の席で義父がそう言った。引け目のある弟は黙ってそれに頷いたが、リリアンは食事の手を止めて思わず義父を凝視した。

 義父が家族全員と強調したことで、リリアンは悟ったのだ。

 義父はそんなリリアンから目を背け、さっさと食事を済まして庭に向かった。弟も慌てて朝食を飲み込み、父の後に続いた。


「仕方ないのよ。……仕方ないの」


 誰に言い聞かせているのか、義母がそう繰り返した。


 リリアンの家は山中の比較的平らな土地に木を切り開いて建てられていた。庭は解体場と畑を兼ねている。畑と言っても二十歩も歩けば周囲を一周できるくらいの小さな畑だ。山中には畑にできる平らな土地はほとんどなく、この畑でも狩人衆の家が持つ畑の中では大きい方だ。それでも山中の畑では厳しい環境に耐えられる作物しか育たず、芋とほんのわずかな根菜が穫れる程度だ。

 リリアンは庭に残ったわずかな未開拓の土地に水の魔法を放った。魔法で生み出した水はすぐに消えるが、わずかな時間地面は柔らかくなり、その間に弟と義父が地面の石を取り除いた。


「俺が上手に大地の魔法を使えたらなあ。畑ももっと豊かになったんだろうな」


 昨日魔法で取り返しの付かない事件を起こした弟だったが、このときには彼も何かを悟り始めていたのだろう。そんな発言をした。


 畑仕事を終えると、二十歩ほどだった畑の周囲は三十歩ほどになった。そこには芋の種を埋めた。


 家に戻ると、すでに義母がテーブルに料理を並べてくれていた。朝食のあとからずっと作っていたのだろう。昨日まで麓の家と取引をしていた貴重な野菜やきびを使い、見たことがないほど豪勢な食卓が出来上がっていた。


「おー、うまそうだな」


 弟が昨日から初めて笑顔を見せてそう言った。

 弟の席の前にだけ臓物の煮込みが用意されていた。一昨日リリアンが狩った蛇腹狼の臓物の煮込みだ。


「蛇腹狼の臓物はこの世のものとは思えないほどうまいらしいぞ」


 義父はそう言って愛しげに弟の頭をなでた。

 リリアンが生まれてからこの日までで一番のご馳走は、この先リリアンが口にすることになる多くの料理からしてみれば、とても質素なものだった。しかしリリアンはこの日の食卓を忘れることはないだろう。


 蛇腹狼は食用には向かない。


 弟だけが食べる蛇腹狼の臓物は、義父の言うとおり比類ない珍味らしい。臓物を食べる弟は決意を固めた目をして「うめえな、うめえな」と繰り返した。その臓物は身分の高い死刑囚が最期に望む食事として、大陸南部ではとても有名な食材だった。

 食事を終えた弟は、それから二時間後、内臓の毒によって息を引き取った。


 仕方のないことだった。

 家族四人が生きていくには畑は狭く、口減らしが必要だった。

 だから仕方のないことだった。せめて弟の最期に蛇腹狼の内臓を食べさせられたことは、リリアンにとって望外な喜ばしいことだった。苦労をして大きな蛇腹狼を運んできて、本当に良かった。


 リリアンは自分自身にそう言い聞かせるように、仕方のないその現実を飲み込んだ。




 しかし口減らしの甲斐はなく、それから一年後に両親は病に倒れた。そのときたまたま居合わせた旅のアレーチームの手を借りて、リリアンは両親を見晴らしのいい山の中腹に埋め、簡素な墓を作った。弟の墓も二人の墓の中央に移した。その墓からは隣の山の景色が一望できたが、それは緑ばかりのつまらない景色だった。


 再び遺児となったリリアンは、旅のアレーに誘われて村を出る。


 リリアンは世界を巡り、いくつもの幸運といくつもの不運に出会い、運命に抗う力を身に付けていく。

 旅の女戦士リリアンの名は、この先何千年も真実の青の伝説とともに語り継がれて行くことになる。

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