第3話

 翌朝のことだった。制服に着替えていた時、梨々花はリュックを背負いながら僕の元へ駆け寄ってくる。


「にーにおはよ!」

「うん」

「元気ないね。どうしたの?」

「お前らの……」


 僕は言葉を押し殺した。


「いや、ちょっと具合悪いだけ」

「……そう。ゆっくり休んでよ?」


 梨々花はそういうとその場から立ち去って、玄関を開けて元気に学校へと足を運んでいた。僕もそれに続くように玄関から出ようとした時だった。茉莉姉さんは俺の服の袖を引っ張りニヤッと笑った。


「ね、姉さん」

「ねー」

「はい……」

「いい事したくない?」

「い、いい事?」

「うん」

「……いや、いい」

「そ。いつでも誘うから、その気になったら言ってね」


 姉さんの言ういい事とは、なんのことなのか僕は一切分からなかったが、いい予感はしなかった。僕は生きた心地もしない中で学校へ向かっていた。


 クラスに入っても誰とも言葉をかわさず、ただひたすらに授業を受ける時間が進んでいた。窓際の1番後ろの席なんて、そういうやつのベストポジションだなと1人で呆れていると、そんな僕に声をかけてくる物好きな子がいた。


「ねー、君ひま?」

「……別に」

「なんでそんな素っ気ないのー?」

「……」

「ねーねー」

「うるさいよ」

「……ふーん。ふふっ。またね」

「……は?」


 僕は今の子から梨々花のような、茉莉姉さんのような、そして2人とはまた違うような雰囲気を感じ取っていた。


 その予感が当たらないように、そして勘違いであるように祈りながら、僕はまた孤独に授業に臨んでいた。

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