第49話 中学ラストの日
進学先を打ち明けてから数ヶ月が経ち何も答えが出ぬまま、進学先をそろそろ決めないといけない時期に差し掛かった時だった。いつもの様に学校から帰宅すると、茉莉姉さん、梨々花は玄関先で正座をしながら僕の帰りを待っていた。恐る恐る、二人の隙間を抜けて自分の部屋へと行こうとした時だった。
「ねぇ、りゅーくん」
いつものような温かみのある声ではなく、冷たく耳を刺すような声が脳に響いた。おかしいなと異変を感じた時には既に時遅し。
茉莉姉さんは僕の首元に刃を向け、先程よりも凍るような冷たい声で言った。
「りゅーくん。愛してるよ」
たったその一言で、たったの五文字で僕の脳は理解した。これ以上我儘を言えば死しか無いんだと、これ以上は無茶出来ないと脳が身体が察した。
「姉さん、分かった。進学先はこの家から近い場所にする」
「ほんとに?! りゅーくん愛してるー!!」
茉莉姉さんはいつものような明るく元気な声に戻っていた。僕に向けていた刃も降ろし、スキップしながらソファへ座った。
梨々花というと、僕の裾を握ったまま静かに笑っていただけだった。
☆☆☆
進学先が決まり、冬の寒さがまだ残っている三月頃、卒業式が始まっていた。名前が呼ばれ、卒業証書を受け取り、自席に戻る。
長い長い校長の話も終わり、卒業証書を入れた筒を持ちながら校舎から出ると、にこやかな笑みで母、父、姉妹が待ってくれていた。
「卒業おめでとう。来月から高校生だね」
全員が優しくそう言ってくれていた。
そして同時に僕の夢は終わりを告げていたのかもしれない。
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