第48話
翌朝の事だった。とても静かな雰囲気に包まれる自宅の居間、恐る恐る近づくとソファに座って梨々花と茉莉姉さんは僕の行こうとしていた学校のパンフレットをジッと見つめながら深いため息を吐いていた。
バレないように二人がどんな会話をしているのか気づけば聞き耳を立ててしまっていた。こそこそと聴こえる言葉を一つずつ聞き取る。
「お兄ちゃんここ行きたいって、どうするの?」
「私はりゅーくんが行きたい場所に行かせてあげたい。だから決めたんだ」
「なーに?」
「私たちもこの学校近くに引っ越そ」
「梨々花はいいよ。お引越し楽しいし!」
姉妹の会話から読み取れたのは、二人の覚悟と二人がどれだけ悩んでしまっていたか、ということだけだった。それだけ僕は自分のことにだけ集中してしまっていたんだと気付かされていた。
でも今更進路を変えたいなどといって、また二人を困らせてしまってはいけない。そう心が揺れるが、僕は覚悟を決めて、居間に踏み込んだ。
「お、おはよ」
「ん、りゅーくんおはよぉ!♡」
「お兄ちゃんおはよっ」
姉妹揃って満面の笑みで、昨日のことが無かったかのように振舞ってくれていた。僕はちらっとテーブルに視線を移した瞬間、梨々花は急いで拾い上げ、パンフレットが置いていなかったかのように振舞った。
「朝ごはんならまだだよ!」
「あ、うん」
覚悟を決めたはずなのに、詳しい話を何ひとつも出来ず気づけば夕方になっていた。話すチャンスがあるとするなら晩御飯を食べている時だと思い、夕飯が運ばれたテーブルを囲って座った瞬間、僕は話を切り込んだ。
「あの、進学先なんだけど」
「うん?」
「僕はやっぱり、あの高校に進みたい」
「うん、良いよ!」
「姉さんたちには申し訳ないんだけど、朝の会話を聴いちゃってて」
「あ、そうなんだ。なら私たちもそこに引っ越していいよね?」
「それなんだけど、姉さんたちはこっちに居て欲しい。梨々花は急に学校が変わるのは可哀想だし、姉さんは今更学校辞めるなんて出来ないだろうし」
僕がそう言うと姉妹は考え込んだまま、静かに味噌汁を啜った。
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