第46話

 ジリジリと窓から日差しが刺す朝、頬に感じる柔らかな感触で跳ね起きる。どうやら深雪さんの膝枕で朝まで寝落ちてしまっていた。


「お、おはようございます」


 壁に腰をかけて、横たわらず僕をずっと膝枕してくれていた深雪さんに朝の挨拶をすると、深雪さんは眠い目をこすりながら僕の頭を撫でて言った。


「おはよ。寝れた?」

「す、すみません。寝落ちてしまって」

「いいんだよ。りゅうは昨日頑張ったしご褒美だよ」

「ですが、深雪さん寝れなかったでしょ」

「いいんだってば。さ、今日家に帰る日だからささっと準備しちゃって!」


 僕は言われるがままに、荷物の片付けをしながらホテルを出る支度をする。深雪さんも綺麗にベッドシーツを直し、自分の荷物の整理も全て終わったタイミングで、監督が現れる。


「おう、龍介寝れたか?」

「おはようございます。寝れました」

「そか、よし、ホテル出るぞ〜」


 チェックアウトをし、空港までタクシーに揺られながら行く。タクシー内は昨日の静けさが無かったかのように監督と深雪さんと一緒に楽しく話せていた。


 空港に到着し飛行機に乗るまでの間ベンチに座りながら談笑していると、誰かがこちらに近づいてきていた。


「ごめん、君時間あるかな?」

「あ、えっと。少しなら」

「私、君の大会を見ていてね。気になって声をかけたんだが」

「え?」

「初めまして。私は九州の方で高校の柔道部監督を務めているものでね、君をスカウトしたいなと思って声をかけさせてもらったよ」

「え、もしかしてあの有名な」

「私を知っているのか」


 声をかけてきた女性は、僕が憧れた高校の柔道部監督で、全国大会個人、団体優勝を導き世界へ何人も羽ばたかせた名将と称えられる人だった。


「あ、あの!」

「ん?」

「も、もし良ければ僕を指導してください!」

「あら、私が誘ったのに」

「憧れでした。そんな高校で柔道ができるなら僕からお願いしたいです!」


 そう答えた時だった。空港内に響く搭乗アナウンス。僕が乗らなければいけない便で、慌てて動いていると女性監督さんは僕の服の胸ポケットに紙切れ一枚を入れて言った。


「お家ついたらこれに連絡して」

「あ、はい!」


 今の僕は胸の高鳴りがおさまらず興奮気味だったが、これが後々あんな事態を引き起こすなんて知る由もなかった。

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