第41話
深雪さんは僕の身体に手を乗せながら、透き通るような、なんとも言えない声でいった。僕は何をされるのか怖いというよりもワクワクと言った好奇心に襲われる。
ここで、試したい。そう言ったらどうなるんだろう。そういう気持ちで胸がいっぱいになり膨らむ。だがそんな気分も雰囲気も壊すようにノック音が部屋に響く。
「龍介すまん入るぞー」
監督だ。監督の声だ。
僕は深雪さんから離れて、監督が部屋に入るのを待つと監督はニコッとした笑みで言った。
「お前の明日の対戦相手勝たないと、やばいぞ」
「それは監督のプライドですか?」
「それもあるが、お前が負けるような相手ではないってのが正しい」
「分かりました。頑張ります」
「それと明日深雪はホテル待機な」
監督は深雪さんの顔を見ながら言った。驚いた顔をする深雪さんに対して監督は冷たい目で言った。
「お前がいると龍介の気が散るだろ。とりあえずもう寝ろ。おやすみな龍介」
「は、はい。おやすみなさい」
一筋縄ではいかないとかさっき深雪さんから伝えられたのに、僕の緊張を悟ったように現れて、僕の緊張をほぐしてくれる監督にただただ尊敬、そして本当に最高の監督だなと思っていた。
ふと後ろを振り向くと深雪さんはぷくっと頬を膨らませながら僕の服の袖をキュッと握り言った。
「私になかなかチャンスが無いから今日こそはって思ったのに」
「な、何がですか?」
「だってあっちに戻ったら、義姉義妹さんだったり、ランニング仲間の優香さんだったっけ、その人もいるし同級生も龍介くんのこと狙ってる人多いんでしょ?」
「えっと、その口ぶりじゃ深雪さんも狙ってるみたいに聞こえますけど……」
僕は淡い期待を込めて言ってみると、深雪さんは頬を赤らめて言った。
「そうだよって言ったらどうする?」
「……えっと」
「ふふっ。まーいいや。寝よ?」
「あ、はい」
結局体重をすぐに減らせるという技を教えてもらうことは出来なかった。
だが明日大事な試合があるというのに前日に試合以外でドキドキするなんて思わなかったが、そのお陰で試合のことで緊張することは翌日もなかった。
☆☆☆
翌朝、会場に監督とともに着く。
チラッとスマホを覗くと茉莉姉さんや梨々花からの応援動画や坂上、クラスの皆からの応援LINEが沢山入っていた。
気合十分。体重測定も難なく通り、第一試合が始まった。自分の順番まで準備体操をしながら待っていると名前がコールされる。
赤帯金沢龍介くん、白帯祭谷俊哉くん。
初全国大会、僕の初戦を監督は鋭い目つきで見ていた。監督の方が緊張しているんじゃないかなんて思いながら畳に入る。
足に畳の感触が、そして自分の柔道着の触り心地。緊張をホグらせる自分のルーティンをしながら互いに礼をして【始め】の挨拶を待つ。
【始め!!】
試合が始まった。
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