第38話

 梨々花は深刻そうな顔をしながら、僕の目を見つめながら僕の心を突き刺すかのような言葉を永遠と言った。


「私たちはこんなにもお兄ちゃんを愛していて、こんなにも心配していて、こんなにも大会頑張って欲しいって思っているのに、浮かれて遊びに行くなんておかしいんじゃないの?」

「い、息抜きだってあるだろ……」

「息抜きって、何を抜くの?」

「え、そりゃ日頃のストレスとか」

「ストレスって、私たちと暮らしていることについてなの?」

「ち、違うよ!」

「じゃあ他に何ストレス抱えてるっての?」

「……」


 僕は答えられなかった。ヤンデレでいつもベタベタしてきて何かあればうるうると涙目になるめんどくさい義姉に、今のようにチクチクと心を突き刺すような言葉をつらつら並べ、何かあればすぐヘラる義妹にストレスを感じるなと言う方が無理だと思ったからだ。


 僕はただ黙って下を俯くと茉莉姉さんは僕の頭を撫でながらも耳元で小さく震える声で言った。


「今日のことは目を瞑りますけど、まだ龍介くんは高校生でもなければ大学生でもない。ましてや大会を控えてる将来が大事な子なんだよ。心配しているこっちの身にもなって」

「は、はい」


 僕はただ楽しく遊んでいたあの時間が愛おしく感じていた。たった数時間前の記憶なのに。

 梨々花と茉莉姉さんは僕に目線を送りながら、自分の部屋へと戻って行った。僕もそれに続くように靴を脱ぎいつもなら煩かったはずの静まり返った廊下を歩き自室に戻った。


 ベッドに横たわり、今日のことを反省しようとチラッとスマホを見ると3件の新着があった。全て監督からだった。


 内容を見ると今度の全国大会の組み合わせ表のPDFと公示された対戦相手の試合動画1本、そして僕への応援が綴られていた。ここまでしてくれる監督が居ながら僕は何を浮かれていたのかと反省しながら、翌日の朝までずっと対戦相手の試合動画を繰り返し見ていた。


 ☆☆☆


 朝7時半になった頃、僕は自室から出るといつも通りの煩さが戻り、茉莉姉さんと梨々花は僕の顔を見るなり元気に声をかけてくれた。


「おはよお兄ちゃん!」

「おはよ龍介くんっ!」


 昨日のことが嘘かのような光景に僕は安堵して涙を流してしまっていた。


「りゅ、龍介くん?!」

「お兄ちゃん?!」

「な、なんでもない。おはよ2人とも」


 僕は二度とあんなことをしないように、必ず報連相を大事にしようと心に決めて全国大会の日まで過ごした。

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