第35話

 今日が学校の終わりということで、体育館への移動をし始めた時どこからか視線が感じる。僕は何処から視線が向いてくるのか、調べようと思ったがどうにもこうにも、視線は必ず人混みに紛れて感じる。


 視線を気にしないようにと思っていたが、ずっと嫌な汗が出る。もしかしたら、あのジュリって子や冴香からじゃないかと疑いながら修業式に集中を向けた。長い校長の話、教師たちの離任式など硬っ苦しい、別に要らないなと感じるものが終わった。


 昼になり、皆がウキウキしながら明日からの夏休みを楽しみに帰って行った。僕もササッと帰って全国大会に向けてのラスト調整を始めようと思っていた時だった。あの視線が廊下から感じ、僕は急いで扉を開けた時だった。


「きゃっ?!」

「2人だったんだね」

「ごめんなさい」


 あの視線の張本人はジュリ、そして冴香からだった。


「龍介くん夏休み全国大会あるって言ってたからお守りを」

「冴香ちゃんありがとう」


 冴香からお守りを有難く受け取ると、冴香は走って帰っていった。ジュリは何か用があるのかと問いかけようとした時だった。


「ご、ごめんなさい!」

「え、いや」

「で、では!」


 ジュリは走って逃げていったが、ちょっとおバカな子なのかなと感じる。何故なら目の前に教師がいるのに走って逃げていったからだ。案の定教師に捕まり、廊下を走っていたことをこっぴどく怒られていた。


 ノロノロと帰る姿は、母猫に怒られた子猫のような姿で思わず笑ってしまう程だった。面白いシーンが見れたところで、本当に帰ろうと荷物を持った時だった。


「龍介帰ろーぜ!」

「坂上!」


 タイミングよく坂上が教室に来て、一緒に帰ろうと誘ってくれた。僕は強く頷き、坂上とともに学校を出てゆったりまったりと話しながら帰った。


「全国大会俺も応援行きたいんだけど、自費みたいだし、それに熊谷さんだろ?」

「そう、熊谷さんなんだよ……」

「頑張れよ」

「うん……」

「負けたら」

「や、やめてくれ、想像もしたくない」

「だよなぁ」


 坂上と他愛もない会話をして、帰路に着いた。


 ☆☆☆


「ただいま」


 誰か家に居ないのかと、声を大きくして言ったがどうやらまだ2人とも帰ってきて居ないようで、靴を脱ぎ自室に向かった時だった。客間の方から笑い声が聞こえてくる。


 恐る恐る少しだけ扉を開けると、茉莉姉さんと梨々花、そして目の前にはイケメンの男と顔立ちの良い小学生が向かい合わせに座りながら談笑していた。


 僕はそれを見なかったことにして自室に戻り、配られた課題を少し終わらせてしまおうと机に向かったが、談笑していた声が大きくなり始め集中が乱れてしまい、勉強をやめた。


 あの男は誰なのか。気になりつつもあそこで「ただいま」と客間を開けてしまえば、弄られるのは目に見えていた。


 仕方なくひとつ眠ろうと、イヤフォンを耳に押し込んでベッドに横になった。


 明日から夏休みだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る