第28話
翌朝は普段通り、朝5時過ぎに僕は家を出てランニングを始めた。優香さんに会うために。数分走り、あのいつもの約束の場所へ行くと眠たいのか大きな欠伸をして優香さんが立っていた。
「おはようございます!」
「龍介くん〜!」
「優香さん眠いんですか?」
「そー。ちょっと昨日飲みすぎちゃってね」
「無理しないで下さい」
「ありがとう。優しいね」
優香さんは僕を撫でながら優しく微笑んでくれていた。僕はただその撫でが優しく、そして半分恥ずかしさもあった。恥ずかしさをかき消すために、優香さんを少し焦らせるように僕は走り始めた。
「ま、待って!」
「あ、はい!」
優香さんと同じペースで走りながら、数十分経った頃、おもむろに優香さんは深酒の理由を語ってくれた。
「昨日別れた元カレから電話あったのよ」
「え?」
「その反応になるのも分かるよ。だって元カレの連絡先消してないんだもん」
「い、いや僕が驚いたのはその元カレさんの方です」
「ん?」
「別れた彼女さんに電話するって、身体の関係求めてるとしか思えなくて」
僕は偏見交じりのことを言い、そして人の元カレに対して失礼なことを言ってしまっていたが、優香さんはクスッと笑いながら言った。
「正解!」
「え?」
「あいつったら私をセフレにしたいって言ってきたのよ」
「く、クズですね」
「そう。クズなの!」
優香さんが深酒するのも分かってしまった。僕が女の子だとして別れた男から身体の関係になれなんて言われたら、少しでも残ってた未練なんか吹き飛んでしまうと。
そう思っていると優香さんは僕に優しく微笑みながら言った。
「龍介くん。私前言ってたの嘘じゃないからね」
「ど、どれですかね」
「貴方の義姉さんと会った時のこと」
「……はい。でも僕はまだ」
「分かってる。龍介くんが高校、大学って進学した後に、まだ龍介くんがこの人と結婚したいって人が居なかったら私と結婚してよ」
「で、でも優香さんも」
「ううん。私は龍介くん以外居ない、有り得ない。女って1度完全に好きになった人からは離れられないのよ」
優香さんは少し悲しげに下を俯きながら言う。僕はその覚悟を受け入れなければ失礼だと思いながら、ペースを上げて優香さんを少し置いていく感じになってしまった。
☆☆☆
優香さんとのランニングを終えて、家に帰宅しシャワーを浴びていた時だった。茉莉姉さんはシャワールームの扉近くに立ちながら、静かなそして怖さも感じる声で言った。
「龍介くん。貴方は誰にも渡さないから」
「へ?」
「梨々花にも優香さんにも、冴香さんだっけ。その人にも渡さないから」
「ね、姉さん?」
「分かった?」
僕は恐怖からさっさとシャワールームを出て学校に向かおうとしたが、茉莉姉さんの次は梨々花が僕の背中を掴みながら言う。
「お兄ちゃんは私と一緒にずっと遊ぶもんね〜!」
この日、僕は何か歯車がおかしくなって、噛み合わなくなってしまっているんじゃないかと不安になりながら学校へ向かった。
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