第29話
午前7時半過ぎのこと、僕は通学路を先程のことを考えながら歩いていると、普段この通学路を通らない坂上が、後ろから現れ僕の背中を叩いた。
「おは!」
「あ、坂上。おはよ」
「おや?」
「な、なに?」
「元気ねーでゲスなぁ?!」
「なんだよその言い方」
僕は少し含み笑いをしつつ、変な言い方をして僕を笑わせてくれる坂上のおかげで少し気が紛れた。
すると、坂上はニコッといい笑顔をみせて、カバンを振り回しながら楽しそうにスキップして僕より先に学校へ向かった。
なにか楽しいことがあったのなら僕は嬉しい。坂上が楽しそうにしている姿は僕も楽しくなる。だけど、歯車がどうにも噛み合わない。
午前8時には学校に着き自分の教室へと向かっていると、正面から中里が現れ、僕の方に向かって小走りで向かってくる。
「おはよう。龍介くんだったかな?」
「あ、うん」
「今日放課後俺たちと遊ぶようだが、君は来ないでくれるか?」
「来ないで欲しいと言うなら行かないけど、理由は?」
「君みたいな奴がいると、冴香にアタック出来ないからな」
「そう。じゃあ冴香に伝えといて。君が来るなって言ったから行かないと」
「……」
中里は黙り、なにも言わなくなったがタイミングが良いのか悪いのか、冴香が現れる。
「あれ、中里に龍介くんっ!」
「おはよ。冴香」
「お、おはよう冴香殿」
中里は変に緊張しているのか冴香に対して変な呼び名を付けていた。僕は中里のそんな姿に面白さ、そしてこれは遊びに行っても行かなくても結果は同じだなと何故か思ってしまった。
「ね、2人とも楽しみだね!」
そんなことを思っていると冴香は嬉しそうにジャンプをして放課後の期待を胸いっぱい膨らませていた。僕はそんな冴香の楽しさを今から潰してはいけないと思い、遊びに行かないことを言わずに放課後まで黙っていた。
☆☆☆
放課後。皆がそれぞれ掃除を始めたり、帰ったり部活に行ったりするなか、冴香は中里と橋元という女の子と合流していたようで、僕は見つからないように帰ろうとした。やろうとしていることは酷いが、家に着いてから冴香に連絡を入れようと思っていたからだ。
だがそんなことも上手くいかず、すぐに冴香に見つかってしまった。
「龍介くんっ!」
「あ……」
「あれ?」
「あ、あはは」
「か、帰るの?」
「中里くんが、僕とは遊びたくないらしくてね。僕は帰るよ。元々3人で遊ぶ予定だったんでしょ?」
「え、中里がそんなこと言ったの」
冴香は悲しげな顔をしながらも、僕の手をつかみながら言った。
「か、帰る?」
「帰ろうかな」
「そ、そう。またね」
可哀想だとは思ったが、僕は人の恋路を邪魔したくない。その人に邪な気持ちがあったとしても。それに茉莉姉さんや梨々花の動向が気になるというのもあり、ささっと帰りたい。そう思っていた。
僕は荷物を持って、家までそそくさと帰る。
家に着いたのは午後16時半の事だった。ふと携帯を見ると冴香から連絡が入っていた。
「結局皆とは遊ばずに帰りました」
たったその一言だった。
帰ったのは間違いだったのか、正しかったのか分からずじまい。
本当に色々と周りが変わり始め、不安な気持ちを抱えたまま中体連全国大会が近づいていた。
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